交通事故で労災保険を使うメリットやデメリットとは?
職場への通勤中や仕事中、または退勤中に、交通事故や災害にあってしまった場合、労災保険を使用することができます。
労災保険を使用する際、メリットやデメリットについて気になる方もいるのではないでしょうか。
- 労災保険とは
- 労災保険の使用方法
- 労災保険のメリット・デメリット
などについて詳しく解説していきます。
労災保険とは?
労災保険とは、労働者が通勤中または業務中に、交通事故などの災害にあい、怪我や病気、死亡してしまった際、必要な保険金の支払いを行う制度です。また、被害にあった労働者の社会復帰や、労働者の遺族に対する援助も行っています。
労働者を1人でも雇っている事業主は、必ず労災保険に加入しなければいけません。労災保険は、正社員のみに限らず、アルバイトやパート、日雇い労働者に対しても適用されます。
労災保険の使用方法
労災保険は、厚生労働省の労働基準監督署が管轄となっています。
労災保険を使用する手順は、以下の通りです。
- ①労働基準監督署へ連絡。
- ②労災保険を使用するための必要書類を作成。
- ③労働基準監督署へ必要書類を提出。
必要書類の一覧は、厚生労働省のホームページで確認することができます。
労災保険の使用手続きは、基本的に労働者本人か、労働者の家族が行います。しかし、労働者の負った怪我や病気が重傷で動けない場合などは、会社が代行して手続きを行ってくれる場合もあります。
労災保険と自賠責保険
通勤中や業務中の交通事故では、「労災保険」か「自賠責保険」のどちらかを使用することができます。どちらを使用するかは被害者が自由に選ぶことができますが、交通事故による損害の保障は、一般的に自賠責保険の使用が優先されます。
ここでは、自賠責保険の保障内容や、労災保険との違いに触れながら、労災保険よりも自賠責保険が優先される理由について、解説していきます。
自賠責保険とは?
自賠責保険とは、自動車を所有する全ての運転者に、加入を義務付けられている保険です。
人身事故で処理された場合のみ、自賠責保険を使うことができます。人身事故とは、交通事故によって怪我人や死亡者がでる事故のことです。自賠責保険が適用されると、通院1日につき4,200円の慰謝料が発生し、限度額は120万円となっています。
自賠責保険は、交通事故によって被害者が負った損害の、最低限を保障することが目的とされています。そのため、慰謝料の金額が、限度額の120万円を超えてしまう場合があります。
自賠責保険による慰謝料の限度額を超えた場合に登場するのが、「任意保険」です。
運転者の任意で加入を決めることができる任意保険ですが、ほとんどの運転者は、任意保険に加入しています。自賠責保険で保障することができなかった不足分は、任意保険によって補われます。
労災保険と自賠責保険の違い
労災保険と自賠責保険の違いは、以下の通りです。
- 治療費支払い額の制限
- 過失割合の影響
- 休業損害(休業補償)の計算方法
- 慰謝料
- 仮渡金制度
- 年金
それぞれの違いを詳しく解説していきます。
治療費支払い額の制限
労災保険では、交通事故による怪我の治療費を全額負担してもらうことができます。
自賠責保険による治療費の保障金額は、120万円が限度額となっています。
労災保険には、労災保険指定の医療機関があります。労災保険指定医療機関へ通院する場合、国が医療機関に対して治療費を支払うため、被害者が費用を負担する必要はありません。
指定医療機関以外へ通院した場合は、被害者が一旦医療機関の窓口で治療費を立て替えなければいけませんが、後から労災保険に対して請求することができます。
過失割合の影響
過失割合とは、発生した交通事故に対して、交通事故当事者双方に認められる責任のことをいいます。
労災保険では、被害者に過失割合が認められた場合でも、保険金が減額することはありません。しかし自賠責保険では、被害者の過失割合が7割以上認められた場合、保険金が減額されてしまいます。
休業損害(休業補償)の計算方法
まず、休業損害と休業補償ともに、「交通事故による怪我が原因で、仕事を休まなければならなくなってしまい、収入が減少してしまった場合の減収分を補うもの」ということに違いはありません。
保険金の請求をする際、自賠責保険で請求する際は「休業損害」、労災保険で請求する際は「休業補償」の用語が使われます。
それでは、休業損害と休業補償の計算方法を説明していきます。
休業損害
休業損害の計算式は、以下の通りです。
- 休業損害 = 5,700円 × 休業日数
休業損害では、1日の基礎収入額が5,700円以下の人でも、5,700円を基本として計算することができます。
また、1日の基礎収入額が5,700円を超えることが資料などで証明できれば、その金額を1日の基礎収入額として計算することができます。ただし、限度額は1万9,000円となっています。
休業補償
休業補償は、休業4日目が開始日とされています。
計算方法は、まず交通事故前3ヶ月間の平均給与を日割りし、その金額を給付基礎日額とします。そして、給付基礎日額の60%に休業日数をかけた金額が、休業補償となります。
また、休業補償に加えて休業特別支給金が支払われます。休業特別支給金は、休業4日目を開始日として、休業1日につき給付基礎日額の20%に休業日数をかけた金額が支払われます。
つまり、休業補償では給付基礎日額の80%の支払いを受けることができます。
以上のことを計算式にすると、以下のようになります。
- 休業補償 = 給付基礎日額の60% × 休業日数
- 休業特別支給金 = 給付基礎日額の20% × 休業日数
- 支払われる休業補償 = 給付基礎日額の60% + 給付基礎日額の20%
慰謝料
慰謝料とは、交通事故によって被害者が受けた精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったものです。
被害者に対して慰謝料の支払いが行われるのは、自賠責保険のみです。労災保険では、慰謝料の支払いは行われません。
仮渡金制度
仮渡金制度とは、損害賠償額が確定する前でも、賠償金の支払いを受けることができる制度です。
仮渡金は、被害者請求によって自賠責保険会社に請求することができますが、労災保険に対して請求することはできません。
年金
年金での支払いが行われるのは、労災保険のみです。
自賠責保険の保険金は一括で支払われるため、年金での支払いはありません。
労災保険よりも自賠責保険が優先される理由
労災保険を使用するよりも、自賠責保険の使用を推奨される理由をまとめると、以下のようになります。
- 休業補償の補償額が、自賠責保険の方が高額となるため。
- ほとんどの加害者が任意保険に加入しているため。
労災保険と自賠責保険は同時に使える?
結論からいうと、労災保険と自賠責保険を同時に使うことはできません。
労災保険は厚生労働省、自賠責保険は国土交通省が管轄となっています。管轄は異なりますが、厚生労働省、国土交通省ともに国が運営しているため、両方を同時に使うことはできないのです。
労災保険を使用するメリット
労災保険よりも自賠責保険の使用を推奨されることが多いですが、労災保険を使用するメリットも、もちろんあります。
労災保険を使用するメリットは、3つ。
- 負担金がない
- 自分の過失割合が高くても減額されない
- 相手方が無保険でも補償を受けられる
ひとつひとつの内容を見ていきましょう。
負担金がない
労災指定医療機関に通院をした場合、被害者が窓口で治療費を立て替える必要はありません。よって、治療費の心配をすることなく、通院を続けることができます。
自賠責保険の場合、怪我の治療が長引くと、加害者側の保険会社から治療費の打ち切りを申し出てくることがありますが、労災保険では治療費が全額負担されるため、治療費を打ち切られることもありません。
自分の過失割合が高くても減額されない
前述したように、自賠責保険では自分の過失割合が7割以上になると、保険金の減額が行われてしまいます。そのため、十分な保障を受けられない場合があります。
しかし、労災保険では、自分の過失割合が7割以上であっても関係なく、保険金の支払いを受けることができます。
相手方が無保険でも補償を受けられる
交通事故にあったら、被害者は加害者側の自賠責保険会社や任意保険会社に対して、保険金の請求を行います。しかし、加害者が無保険の場合には、保険金の支払いを受けることが出いません。
また、加害者が「自賠責保険には加入しているけれど、任意保険には加入していない」というケースもあります。自賠責保険の限度額を超えてしまった場合、不足分は任意保険によって補われます。しかし、加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者本人から不足分が支払われるのを待たなければいけません。
その反面、労災保険では加害者が無保険であっても、治療費を全額請求することができます。
労災保険を使用するデメリット
労災保険を使用するデメリットに決定的なものはありません。
強いていうのならば、「労災保険を使用することに対して消極的な会社がある」ということです。会社が労災保険の使用に対して消極的な場合「労災保険を使いたい」と言いにくく、使えたとしても会社との関係がぎくしゃくしてしまうかもしれません。
しかし、通勤中や業務中に交通事故にあった被害者には、労災保険を使用する権利があります。労災保険の使用を会社が嫌がったとしても、使用したい場合は申し出るようにしましょう。
まとめ
労災保険のメリットやデメリット、自賠責保険との違いなどについてお分かりいただけたでしょうか。一般的には自賠責保険を使うことが推奨されていますが、労災保険と自賠責保険、どちらを使うかの選択肢は被害者にあります。労災保険を使いたい場合は会社に申し出て、手続きを行うようにしましょう。