交通事故で顔に傷…後遺障害等級認定や傷あとの治療法とは?
交通事故で顔に怪我を負い、もしも傷あとが残ってしまったら、被害者は多大な精神的苦痛を負わなければいけません。交通事故の怪我によって顔に傷あとが残ってしまったら、被害者は加害者に対して、どれくらいの慰謝料を請求することができるのでしょうか。
また、顔の傷あとを目立たないようにする治療法も、被害者が気になる大きなポイントではないかと思います。
今回は、
- 顔に傷あとが残る原因
- 顔の傷あとの治療方法
- 顔の傷あとの後遺障害等級認定について
- 顔の傷あとに対する慰謝料の相場
などについて、詳しく解説していきます。
もくじ
顔に傷あとが残ってしまう原因とは?
皮膚は、表面から順に「表皮」「真皮」「皮下組織」の、3つの層でできています。表皮の新陳代謝は活発なため、約4週間ごとに新しく生まれ変わります。しかし、真皮は新陳代謝のサイクルが遅く、2~6年となっています。
顔の皮膚は、体の皮膚よりも薄くできています。よって、傷の深さにもよりますが、顔に怪我を負うと、真皮まで傷が到達しやすいのです。
真皮が傷つくと、傷口を早急にふさぐために「肉芽組織」が増殖します。
肉芽組織とは、たんぱく質でできた肉の塊です。毛穴や肌のきめ、メラニン色素がなく白いため、元の皮膚と同化することができず、傷あととして目立ってしまうのです。
時間が経過するにつれて、元の皮膚に見た目は近づいていきます。しかし、傷の深さや範囲によっては、事故前の皮膚に細胞を戻すことは困難になってしまいます。
顔の傷あとには種類がある
顔の傷あとには、3つの種類があります。
- 線状痕(せんじょうこん)
- 肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
- ケロイド
それぞれがどのような傷あとになるのか、詳しく解説していきます。
線状痕(せんじょうこん)
線状痕とは、ガラスで皮膚を切ったときのような、切り傷のあとのことをいいます。
また、手術後に残ったあとも線状痕となります。
肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
肥厚性瘢痕とは、傷を縫った後、傷口を補強するための線維組織が過剰に生産され、赤く盛り上がる傷あとのことです。俗にいう、みみずばれのことです。
過剰生産された線維組織は、傷が落ち着くとともに吸収され、自然と平らになっていきます。しかし、新しくできた皮膚は、やはり元の皮膚とは異なってしまいます。
ケロイド
ケロイドは、肥厚性瘢痕がいつまでたっても消えず、かえってどんどん広がっていく傷あとです。時間が経過するにつれて、自然と目立たなくなっていくのが、肥厚性瘢痕の特徴です。しかし、ケロイドは時間が経過しても良くならず、増え続けていきます。
顔の傷あとの治療法は?
顔に傷あとが残ってしまったら、「せめて目立たないような治療をしたい」と誰しもが思うのではないでしょうか。
顔の傷あとの治療法は、大きく分けて3つ。
- 傷あと修正手術
- スターラックス
- ケロイド治療
それぞれの治療法について、詳しく解説していきます。
傷あと修正手術
傷あと修正手術は、保険が適用されます。
ケロイド化してしまったり、急いで傷を縫い合わせたため、縫合部分が大きく目立つ傷になってしまった場合に行います。
手術による傷あとの他、やけどのあとや水疱瘡(みずぼうそう)のあとにも傷あと修正手術を行うことがあります。
スターラックス
スターラックスでは、肌の再生を行うとともに、肌を引き締める効果があります。肌が引き締まることによって、傷あとの盛り上がりを綺麗にすることができます。
スターラックスを使用すると、なぜ肌が引き締まるのでしょうか。
それは、以下の原理に基づいています。
- ①専用機械の先から出るマイクロビームの格子が、皮膚の中に極めて細かい柱状の穴をあける。
- ②穴の周りに熱が生じることで皮膚が収縮し、引き締められる。
ケロイド治療
ケロイドで困る問題のひとつとして、「かゆみ」があります。赤く盛り上がって広がっていくときや、就寝時に体が温まってくるとき、かゆみが最も強くなります。
かゆみに対する特効薬は残念ながらありませんが、かゆみを抑えるためにはレスタミン軟膏を使用します。
ケロイドを完治させることは難しいといわれていますが、以下5つの治療を行うこともあります。
- 手術療法
- 放射線療法
- ステロイド注射
- ステロイド軟膏
- 圧迫療法
それぞれの詳しい治療法を見ていきましょう。
手術療法
ケロイドを切り取り、回りの皮膚を縫い寄せます。特別な方法で内側から細かく縫うことで、再発を予防することができます。
移植した皮膚はケロイドになりませんが、回りとの継ぎ目がケロイドになってしまうことがあります。
放射線療法
電子線を数回から数十回に分けて照射します。ケロイドのでき始めには効果がありますが、古いケロイドにはあまり効果を期待することはできません。また、後遺症として皮膚障害や色素沈着が起こってしまう場合があります。
ステロイド注射
体の免疫力を抑制したり、体の中の炎症を抑える作用があるステロイドを、ケロイドの中に注射します。
比較的効果はありますが、数十回繰り返さなければいけません。また、傷に直接注入するため、痛みがあり、薬が効きすぎると皮膚がへこんでしまう可能性もあります。
ステロイド軟膏
ステロイドを注射する代わりに、ステロイドの入った軟膏を塗る治療法です。ステロイドが入っている絆創膏もあります。
圧迫療法
ケロイドを直接フォームラバーのようなスポンジで抑え、上から絆創膏で圧迫する治療法です。手軽な上に、治療効果も期待できます。
しかし、数ヶ月~半年程度続ける必要があります。また、皮膚が弱い場合、絆創膏でかぶれてしまうこともあります。
顔の傷あとは「外貌の醜状障害」として後遺障害認定される
顔の傷あとは、「外貌の醜状障害(がいぼうのしゅうじょうしょうがい)」として後遺障害認定されます。
後遺障害等級は、傷の範囲や傷あとの大きさによって変わります。
「外貌の醜状障害」は、3つの区分に分けられています。
- ①外貌に著しい醜状を残すもの
- ②外貌に相当程度の醜状を残すもの
- ③外貌に醜状を残すもの
それぞれの区分の内容を、詳しく見ていきましょう。
①外貌に著しい醜状を残すもの
以下のいずれかに該当すると、顔の傷の「著しい醜状」として認められます。
- 鶏卵大以上の顔面部の瘢痕、または10円銅貨大以上の顔面部組織の陥没
- 手のひら大以上の首の瘢痕
- 耳の軟骨の1/2以上の欠損
- 鼻の軟骨の全部、または大部分を欠損
「外貌に著しい醜状を残すもの」と判断された場合、後遺障害等級は7級12号として認定される可能性があります。
②外貌に相当程度の醜状を残すもの
「相当程度の醜状」とは、原則として「顔面部における長さ5cm以上の線状痕で、人目につく程度以上のもの」のことをいいます。
例えば、頬に切り傷を負い、手術を行った上で、7cm程度の肥厚性瘢痕が残ってしまった場合、「外貌に相当程度の醜状を残すもの」として9級16号の後遺障害等級が認定される可能性があります。
③外貌に醜状を残すもの
以下のいずれかに該当し、人目につく程度以上の場合、「醜状」と判断されます。
- 鶏卵大面以上の頭部の瘢痕、または鶏卵大面以上の頭蓋骨の欠損
- 顔面部に10円銅貨大以上の瘢痕、または長さ3cm以上の線状痕
- 鶏卵大面以上の頸部の瘢痕
「外貌に醜状を残すもの」は、12級14号として後遺障害等級認定される可能性があります。
顔の傷あとを後遺障害として認定してもらうポイント!
顔の傷あとに対する後遺障害等級認定を申請するにあたって、適切な等級の認定を受けるには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
納得のいく後遺障害診断書を取得する
後遺障害診断書は、後遺障害等級認定を申請する際に必要な書類で、医師のみが作成できます。
後遺障害診断書には、「醜状障害」を記入する欄があります。
医師に作成を依頼する際、醜状障害の記入欄に、醜状の場所や大きさなど、詳細を細かく記入してもらいましょう。また、どのような醜状なのか、別紙に図で描いてもらってもよいです。
被害者請求をする
後遺障害等級認定の申請方法には、加害者請求と被害者請求があります。
加害者請求は、加害者側の保険会社に後遺障害等級認定の申請を任せてしまうため、どのような手続きが行われているのかを、被害者は知ることができません。
被害者請求は、後遺障害等級認定の申請を被害者自身が行うため、手続きの内容を知ることもできますし、自身にとって有利になるように進めていくこともできます。被害者請求を行う際、顔の傷あとが分かる写真を、必要書類と一緒に提出すると良いでしょう。
顔の傷あとに対する慰謝料の相場とは?
被害者は、加害者側の保険会社との示談が成立した後に、慰謝料を受け取ることができます。示談交渉を行う前に、顔の傷あとに対する慰謝料の相場を把握しておきましょう。
顔の傷あとに対する慰謝料の相場は、以下の通りです。
顔の部位 | 醜状の程度 | 等級 | |
---|---|---|---|
頭 | てのひら大以上の瘢痕 | 7級 | 1000万円 |
頭蓋骨のてのひら大以上の欠損 | 7級 | 1000万円 | |
鶏卵大以上の瘢痕 | 12級 | 290万円 | |
頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損 | 12級 | 290万円 | |
顔面 | 鶏卵大以上の瘢痕 | 7級 | 1000万円 |
10円銅貨大以上の組織陥没 | 7級 | 1000万円 | |
長さ5cm以上の線状痕で人目につくもの | 9級 | 690万円 | |
10円銅貨大以上の瘢痕 | 12級 | 290万円 | |
長さ3cm以上の線状痕 | 12級 | 290万円 | |
首 | てのひら大以上の瘢痕 | 7級 | 1000万円 |
鶏卵大以上の瘢痕 | 12級 | 290万円 |
まとめ
交通事故によって顔に傷あとが残ってしまったら、肉体的にも精神的にも、大きなダメージを受けることかと思います。しかし、諦めずに治療を行うことで、傷あとが目立たなくなる可能性もあります。加害者からしっかりと慰謝料を受け取り、医療機関で適切な治療を受けましょう。