後遺障害が2つ以上ある場合、等級はどうなる?併合のルールについて
交通事故で怪我を負った場合、後遺障害が残ることもあります。人によっては、交通事故による後遺障害が2つ以上残ってしまうこともあります。
後遺障害が2つ以上残ってしまった場合、後遺障害等級認定において等級が併合されます。今回は、後遺障害等級認定の等級併合について解説していきます。
もしも後遺障害が2つ以上残った場合は、この記事を読んで、是非参考にしてください。
もくじ
後遺障害等級認定とは?
交通事故で後遺障害が残った場合、後遺障害等級認定を申請します。後遺障害等級認定とは、交通事故が原因で残った後遺障害が、どの等級に該当するのかを審査するためのものです。
後遺障害等級認定の審査は、自賠責損害調査事務所が書面のみで行います。
後遺障害等級認定を申請するタイミング
後遺障害等級認定を申請するタイミングは、通院先の担当医に症状固定と診断された後に行います。症状固定と診断されなければ、まだ完治の見込みがあるとされ、後遺障害の等級が認定されない可能性もあります。
また、後遺障害等級認定で等級が認定されるには、5つの条件を満たしていなければなりません。
医療機関へ定期的に通院していること
交通事故の状況と被害者が申告する症状の程度が一致していること
交通事故当初から、被害者の訴える症状が続いており、一貫性があること
後遺症が医学的に(画像診断や検査結果など)証明できること
症状が重く、日常的に症状が続いていること
上記の5つの条件を満たしていることを確認した上で、後遺障害等級認定を申請するようにしましょう。
後遺障害等級認定で受け取れる損害賠償
後遺障害が残った場合、どうして後遺障害等級認定を申請すべきなのでしょうか。
その理由は、後遺障害等級認定を申請することで、被害者が受け取れる損害賠償の増額が期待できるからです。後遺障害等級認定で、後遺障害の等級が認められた場合、以下の損害賠償を受け取ることができます。
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
後遺障害の等級別慰謝料
後遺障害の等級は1~14級まであり、それぞれの等級ごとに該当する症状の内容や程度が異なります。そのため、後遺障害の等級ごとで、後遺障害慰謝料の金額が異なります。等級別の後遺障害慰謝料を以下の表にまとめました。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1100万円 | 2800万円 |
2級 | 958万円 | 2370万円 |
3級 | 829万円 | 1990万円 |
4級 | 712万円 | 1670万円 |
5級 | 599万円 | 1400万円 |
6級 | 498万円 | 1180万円 |
7級 | 409万円 | 1000万円 |
8級 | 324万円 | 830万円 |
9級 | 245万円 | 690万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
11級 | 135万円 | 420万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
後遺障害慰謝料の相場を上記の表で確認してみると、等級だけでなく、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の計算基準によっても異なります。
任意保険基準は、各保険会社ごとで異なる基準が定められており、公表されていません。そのため今回は、自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料を提示しています。
後遺障害が2つ以上ある場合は等級が併合される
後遺障害が残るのは、1つとは限りません。もしも後遺障害が2つ以上残った場合は、等級が併合されます。等級が併合された場合、慰謝料の増額が期待できます。
等級の併合ルール
後遺障害等級の併合にはルールがあります。以下の表にまとめました。
症状が重い 等級 |
症状が軽い 等級 |
併合の結果 |
---|---|---|
1~5級 | 1~5級 | 重い等級+3級 |
6~8級 | 重い等級+2級 | |
8~13級 | 重い等級+1級 | |
14級 | 重い等級 | |
6~8級 | 6~8級 | 重い等級+2級 |
8~13級 | 重い等級+1級 | |
14級 | 重い等級 | |
8~13級 | 8~13級 | 重い等級+1級 |
14級 | 重い等級 | |
14級 | 14級 | 併合14級 |
上記の併合ルールに則って、いくつか事例を紹介します。
例1:後遺障害5級3号と後遺障害5級8号に該当する症状が残っている場合
→併合ルールにより、後遺障害の等級は2級となる。
(※重い等級の5級を3つ繰り上げるため)
例2:後遺障害6級と後遺障害7級に該当する症状が残っている場合
→併合ルールにより、後遺障害の等級は4級となる。
(※重い等級の6級を2つ繰り上げるため)
例3:後遺障害7級と後遺障害12級に該当する症状が残っている場合
→併合ルールにより、後遺障害の等級は6級となる。
(※重い等級の7級を1つ繰り上げるため)
例4:後遺障害13級と後遺障害14級に該当する症状が残っている場合
→併合ルールにより、後遺障害の等級は13級となる。
(※重い等級である13級のまま)
等級の併合が認められない場合もある
後遺障害が2つ以上残った場合でも、等級の併合が認められない“例外”もあります。
- ①同じような部類の後遺障害が2つ以上残った場合
- ②等級の併合により、後遺障害の序列を乱す場合
- ③等級表で組み合わせ等級が決まっている場合
- ④1つの後遺障害を異なる視点で評価している場合
- ⑤1つの後遺障害に、他の後遺障害が常に派生する関係にある場合
①同じような系列の後遺障害が2つ以上残った場合
後遺障害の併合は、「系列の異なる身体障害が2つ以上ある場合に行われる」と定義づけられています。そのため、同じような系列の後遺障害の場合は、等級の併合が行われません。
なお、下記の障害が同一部位に残った場合には、系列は異なりますが、同一の系列とみなした取扱いがなされます。
①両眼球の視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害の各相互間
②同一上肢の機能障害と手指の欠損又は機能障害
③同一下肢の機能障害と足指の欠損又は機能障害
上記のような事例の場合は、等級の併合が適用されないため、等級の併合が行われないことになります。
②等級の併合により、後遺障害の序列を乱す場合
後遺障害の等級の併合を適用したときに、後遺障害等級の程度に達しないことがあります。このようなケースの場合は、等級の併合ルールと異なる決め方で、等級が定められます。
例えば…
- 右上肢をひじ関節以上で失った:4級4号
- 左上肢を手関節以上で失った:5級4号
上記2つの等級に該当する症状が残った場合、等級の併合ルールにより、重い等級の4級を3つ繰り上げることになります。等級の併合により、後遺障害の等級は1級になります。
しかし、2つの後遺障害は1級3号の「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」に達しないため、後遺障害の序列を乱してしまいます。この場合は、1級3号の「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」よりも低い、後遺障害2級になります。
③等級表で組み合わせ等級が決まっている場合
後遺障害の等級には、上肢や下肢、手指、手足など、左右別々で項目を定めています。しかし、右下肢と左下肢の両方に後遺障害が残った場合で、組み合わせ等級に該当する場合は、組み合わせ等級が優先されます。
組み合わせ等級の例は、以下の通り。
- 1級:両下肢の用を全廃したもの
- 3級:両手の手指の全部を失ったもの
- 6級:両眼の視力が0.1以下になったもの
- 9級:両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの など
④1つの後遺障害を異なる視点で評価している場合
2つ以上の後遺障害がある場合でも、1つの後遺障害を異なる視点で評価していることがあります。その場合、等級の併合は行われず、2つの後遺障害のうち重い等級が認定されることになります。
1つの後遺障害を異なる視点で評価している例
交通事故で左大腿骨に変形を残したために、 左下肢を1㎝短縮した場合
- 左大腿骨に変形がある場合:12級8号
- 左下肢を1㎝短縮した場合:13級8号
に該当します。この場合、等級の併合ルールにより、11級に繰り上げられます。
しかし、上記の状態は、1つの大腿骨の障害を変形と短縮という2つの後遺障害を異なる視点で評価しているにすぎません。そのため、等級の併合は行われず、重い等級である12級8号が認定されます。
⑤1つの後遺障害に、他の後遺障害が常に派生する関係にある場合
系列が異なる後遺障害が2つ以上ある場合でも、1つの後遺障害に別の後遺障害が常に派生する関係にあることがあります。
その場合、実質的には1つの後遺障害に基づく症状であるため併合は行われず、重い等級のみが認定されます。
1つの後遺障害に、他の後遺障害が常に派生する関係にある例
交通事故により右上腕骨に偽関節を残し、かつその部位に頑固な神経症状を残した場合
- 右上腕骨に偽関節を残した:8級8号
- 局部に頑固な神経症状を残した:12級13号
に該当します。この場合、等級の併合ルールにより、11級に繰り上げられます。
しかし、偽関節部位の神経症状は、偽関節から通常派生する関係にある後遺障害です。そのため、後遺障害の併合は行われず、重い等級である8級8号が認定されることになります。
後遺障害等級認定の手続き
後遺障害等級認定を受けるには、申請手続きを行わなければなりません。後遺障害等級認定の申請手続きは、以下2つから選択することができます。
- 事前認定
- 被害者請求
事前認定
事前認定は、害者側の任意保険会社に、後遺障害等級認定の申請手続きのすべてを任せる方法加です。被害者が加害者側の保険会社へ後遺障害診断書を提出すれば、残りの手続きは加害者側の保険会社が行ってくれます。
事前認定で後遺障害等級認定を行えば、被害者は手続きを行う手間を省くことができます。しかし、加害者側の保険会社が後遺障害等級認定の手続きを進めていくため、被害者は手続きの内容を把握することはできません。そのため、納得のいく後遺障害の等級が認定されない可能性もあります。
被害者請求
被害者請求は、被害者自身が直接、加害者側の保険会社に後遺障害等級認定の申請を行う方法です。被害者は、申請に必要な書類をすべて自分で集め、加害者側の自賠責保険会社へ送らなければなりません。
したがって、被害者請求には手間と時間がかかります。しかし、被害者自身で後遺障害等級認定を進めるため、手続きの内容を把握することができます。そのため、事前認定よりも後遺障害等級が認定されやすくなることもあります。
▶︎参考:被害者請求で必要な書類について詳しく知りたい方はこちら。
後遺障害等級の併合についてのまとめ
いかがでしたか。後遺障害が2つ以上ある場合は、等級が併合されることもあります。等級が併合されれば、慰謝料の増額が期待できます。しかし、等級が併合されない例外のケースもあるので、注意しましょう。