交通事故の逸失利益の計算方法とは?受け取れる対象者についても解説

2019年02月04日

交通事故で負った怪我が後遺症になり、後遺障害等級認定を申請すれば、逸失利益を受け取れる場合があります。逸失利益を受け取れるとき、自分の場合はいくら受け取れるのか知りたいですよね。そこで今回は、逸失利益の計算方法をわかりやすく解説していきたいと思います。

交通事故の逸失利益とは?

交通事故後に後遺障害が残ると、労働能力が減少する可能性があります。労働能力が減少してしまうと、受け取れるはずだった将来の利益が減ってしまいます。その減少した利益を補うことを目的として「逸失利益」を受け取ることができるのです。

逸失利益は損害賠償の一つ

そもそも逸失利益とは、損害賠償の一つです。損害賠償とは、交通事故の被害者が受けた損害を加害者が金銭で補填することをいいます。被害者が受け取ることのできる損害賠償は、大きく分けて3つあります。

  • ①積極損害
  • ②消極損害
  • ③慰謝料

①積極損害

積極損害とは、交通事故が原因で出費を余儀なくされた場合の損害のことをいいます。

積極損害として請求できる費用は、以下のものがあります。

  • 治療費
  • 診療費
  • 入院費
  • 付添看護費
  • 入院雑費
  • 通院交通費
  • 装具・器具などの購入費   など

②消極損害

消極損害とは、交通事故の被害にあわなければ、得られたはずの将来の利益に対する損害のことをいいます。

先程紹介した逸失利益は、この消極損害に当てはまります。消極損害は、逸失利益以外にも、休業損害というものがあります。

  • 休業損害とは…
    交通事故が原因で仕事を休まなくてはならないとき、仕事を休んだことで減った給料分を補うためのもの。

③慰謝料

慰謝料とは、交通事故の被害者が負った精神的苦痛を、加害者が金銭で賠償することをいいます。

交通事故の慰謝料には、以下の2つがあります。

  • 入通院慰謝料:交通事故後、入通院したことで被害者が負った精神的苦痛の対価として、加害者が支払うもの。 
  •      

  • 後遺障害慰謝料:交通事故後、後遺障害が残ったことで被害者が負った精神的苦痛の対価として、加害者が支払うもの。

逸失利益を受け取るには?

逸失利益は、誰もが受け取れるものではなく、対象者が決められています。また、後遺障害等級認定において後遺障害の等級が認められなければ、被害者は逸失利益を受け取ることができません。

逸失利益を受け取れる対象者

逸失利益を受け取ることができるのは、現在働いている人と、将来働いて収入を得られる可能性がある人です。働いている方だけが対象だと思ってしまうかもしれません。しかし、対象者は、他にもいます。

例えば、赤ちゃんや学生、無職の人も逸失利益を受け取れる対象者です。
赤ちゃんや学生、無職の人でも、将来働いて収入を得るはずです。したがって、赤ちゃんや学生、無職の人でも受け取ることができます。

また、主婦でも将来の家事や育児に支障が出るようであれば、逸失利益を受け取ることができます。

1 最高裁昭和49年7月19日判決・民集28巻5号872頁は,7歳女児の死亡事故に置いて,原判決が,高校卒業後平均初婚年齢の25歳までの逸失利益を認め,結婚後は離職するものとして,結婚後の逸失利益を認めなかったのに対し,「結婚して家事に専念する妻は,その従事する家事労働によって現実に金銭収入を得ることはないが,家事労働に属する多くの労働は,労働社会において金銭的に評価されうるものであり,これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから,妻は,自ら家事労働に従事することにより,財産上の利益を挙げているのである」とし,さらに,「具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少なくないことは予想されうるところであるが,かかる場合には,現在の社会情勢等にかんがみ,家事労働に専念する妻は,平均的労働不能年齢に達するまで,女子雇用労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である」としました。

家事従事者(主婦)の休業損害・逸失利益

このように過去の判例において、家事や育児が金銭的に評価されるものとしているため、主婦でも逸失利益を受け取ることができるのです。

後遺障害等級認定を申請する

逸失利益は、後遺障害等級認定を申請し、後遺障害の等級を認められなければ、受け取ることができません。したがって、忘れずに後遺障害等級認定を申請しましょう。

後遺障害等級認定を申請する手続き方法は、以下の2つです。

  • 事前認定(加害者請求)
    事前認定は「加害者請求」とも呼ばれており、加害者側の保険会社に、後遺障害等級認定の申請手続きを全て任せる方法です。
  • 被害者請求
    被害者請求とは、加害者側の保険会社に対して、被害者が直接、後遺障害等級認定の申請手続きを行う方法です。

▶︎参考:事前認定(加害者請求)と被害者請求について詳しく知りたい方はこちら

被害者請求で必要な書類一覧は、以下の通り。

書類名 取得先
保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書 自賠責保険会社より取り寄せ
交通事故証明書 自動車安全センター
事故発生状況報告書 被害者が作成
医師の診断書 治療を受けた病院
診療報酬明細書 治療を受けた病院
印鑑証明 住民登録をしている市区町村(区役所等)
後遺障害診断書 治療を受けた病院

後遺障害等級認定で非該当になったら

後遺障害等級認定は書面主義で行われることもあり、書類だけで後遺障害を証明しなければいけません。したがって、後遺障害の等級が認められない場合もあります。

後遺障害等級認定の結果に納得がいかない場合は、異議申し立てを行うようにしましょう。異議申し立てを行う方法は、以下の3つです。

  • ①加害者側の自賠責保険会社に対して異議申し立て
  • ②自賠責紛争処理機構に対して異議申し立て
  • ③裁判をおこす

上記の方法で異議申し立てを行うことにより、後遺障害等級認定の結果を覆すことも可能です。

▶︎参考:異議申し立ての方法について詳しく知りたい方はこちら

逸失利益の計算方法

逸失利益の計算方法は、複雑で難しいです。ここでは、逸失利益の計算方法についてわかりやすく解説していきます。

逸失利益の計算に使う値

逸失利益を計算するには、以下3つの値が必要です。

  • ①基礎収入
  • ②労働能力喪失率
  • ③労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数

それぞれの定義については、以下の通り。

①基礎収入
後遺障害が残らなければ、得られたはずの収入のこと。基礎収入の調べ方は、以下の通りです。

職業 基礎収入の調べ方
給与所得者である会社員 交通事故にあう前の実際の収入
個人事業主にあたる自営業者 確定申告額
家事従事者にあたる主婦 賃金センサス(※1)
無職者 働く可能性があれば賃金センサス
学生 賃金センサス

※1 賃金センサスとは、「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめたものです。地域や企業の規模、就業形態、職種、性別、年齢、学歴など、働く人の属性別に見た賃金の実態を把握することができます。

②労働能力喪失率
後遺障害が残ったことで減少した収入の割合のこと。労働能力喪失率は、後遺障害の等級ごとに異なります。以下の表をご覧ください。

後遺障害の等級 労働能力喪失率
1級 100%
2級 100%
3級 100%
4級 92%
5級 79%
6級 67%
7級 56%
8級 45%
9級 35%
10級 27%
11級 20%
12級 14%
13級 9%
14級 5%

③労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数
労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数は、「労働能力喪失期間」と「中間利息控除係数」の2つに分けて解説します。

  • 労働能力喪失期間:後遺障害によって収入の減少が発生する期間のこと。
  • 中間利息控除係数:逸失利益を症状固定時の金額にするための係数のこと。

労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数は、労働能力喪失期間によって中間利息控除係数が決められています。労働能力喪失期間は1年~67年まであり、症状固定日から67歳までの年数で決まります。

例えば、28歳の人であれば、67歳 – 28歳=39となります。したがって、労働能力喪失期間39年のときの中間利息控除係数を使うことになります。

労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数の一部を、以下の表にまとめました。

労働能力喪失期間 中間利息控除係数
1年 0.9524
2年 1.8594
3年 2.7232
4年 3.546
5年 4.3295
6年 5.0757
7年 5.7864
8年 6.4632
9年 7.1078
10年 7.7217

逸失利益の計算式

上記で紹介した、逸失利益の計算に使う値を計算式に当てはめると、以下のようになります。

  • (基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数)

この計算式を使えば、逸失利益を計算することができます。

【実践!】逸失利益を計算する

では、実際に逸失利益を計算してみましょう。

    例1:45歳の会社員で、事故にあう前の年収は600万円、後遺障害の等級は14級の場合

    基礎収入 :600万円
    労働能力喪失率:5%
    労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数:13.163(労働能力喪失期間が22年)

    600万円 × 5% × 13.163 = 約394万8900円

    よって、逸失利益として受け取れるのは、約394万8900円

    例2:30歳の会社員で、事故にあう前の年収は320万円、後遺障害の等級は12級の場合

    基礎収入 :320万円
    労働能力喪失率:14%
    労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数:16.7113(労働能力喪失期間が37年)

    320万円 × 14% × 16.7113 = 約44万7983円

    よって、逸失利益として受け取れるのは、約44万7983円

交通事故の逸失利益の計算方法まとめ

いかがでしたか。交通事故の逸失利益を計算する場合、(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数)の計算式を使います。それぞれの値の算出方法については、この記事を参考にしてください。

また、逸失利益を受け取ることができるのは、現在働いている人または、将来働いて収入を得られる可能性がある人です。しかし、現在働いていない赤ちゃん・学生・無職の人や主婦の場合でも、逸失利益を受け取ることができるので、安心してくださいね。