交通事故で受けた精神的苦痛 相手に慰謝料を請求できる?

2019年02月28日


交通事故による被害は、怪我やお金などの目に見えるものだけではありません。交通事故にあったことで、つらい・悲しいといった精神的苦痛を受けたことも被害に含まれます。では、交通事故で受けた精神的苦痛で、相手に慰謝料を請求できるのでしょうか?

精神的苦痛に対するお金「慰謝料」

そもそも慰謝料とは、精神的苦痛に対して支払われるお金です。
交通事故の加害者は、被害者が受けた怪我や、精神的苦痛などの損害を、金銭によって埋め合わせる必要があります。これを「損害賠償」といいます。この損害賠償の中に、精神的苦痛に対する「慰謝料」も含まれています。
また、慰謝料には「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類があります。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

入通院慰謝料とは、交通事故によって入院や通院を強いられたことによる、被害者の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。入通院慰謝料は、傷害慰謝料ともいわれます。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、交通事故による怪我が後遺障害となった場合に、被害者の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。後遺障害には1〜14級までの後遺障害等級があり、1級が最も重い後遺障害となります。後遺障害等級認定の申請が認められると、後遺障害慰謝料を受け取ることができます。

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、交通事故により亡くなった被害者とその遺族の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。被害者の年齢や家族での立場、遺族の人数などによって金額が決定されます。

慰謝料の相場には3種類ある

慰謝料には、実際に受け取れる金額の相場にも3つの種類があります。
慰謝料の計算には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という3つの基準があります。3つの基準のうち、どの基準を元に計算するかによって相場が異なります。

入通院慰謝料の相場

自賠責基準
自賠責基準の場合、入院・通院に関わらず、基本的に1日4,200円と定められています。
入院期間が15日だった場合、4,200円×15日=63,000円となります。
また通院の場合は、治療期間の日数と、実通院日数を2倍したものを比較して、より少ない日数を使って計算します。

例えば、治療に3ヶ月(90日)かかった場合で考えます。

治療期間90日で、実際に通院した日数が36日の場合、36日を2倍にすると72日となります。治療期間の90日より少ないため、この72日を計算に使います。通院慰謝料は、72日×4200円となります。

治療期間90日で、実際に通院した日数が48日の場合、48日を2倍にすると96日となります。治療期間の90日の方が少ないため、90日を計算に使います。通院慰謝料は、90日×4200円となります。

ただ、自賠責保険の損害賠償の総支払額は、120万円までと決められています。そのため、120万円を超えてしまった場合は、自賠責基準は使用できず、任意保険基準に基づいて計算します。

任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社が定めたものです。以前は、保険会社に共通の基準がありましたが、現在は各保険会社が独自に基準を定めています。そのため、任意保険基準は基本的に公表されません。しかし、一般的に弁護士基準の7割程度で算出されるため、自賠責基準より高く、弁護士基準より低くなります。また、被害者の怪我の症状や程度、月平均の通院日数によっても増減します。

弁護士基準(裁判基準)
弁護士基準とは、過去の裁判の判例を参考に算出されます。
また、客観的に確認できる症状がある場合と、むちうちといった自覚症状のみの場合で金額が異なります。以下に簡単にですが、まとめました。
まずは、他覚的な症状がある場合です。

期間 通院 入院
1月 28万 53万
2月 52万 101万
3月 73万 145万
4月 90万 184万
5月 105万 217万
6月 116万 244万

次に、自覚症状のみの場合です。

期間 通院 入院
1月 19万 35万
2月 36万 66万
3月 53万 92万
4月 67万 116万
5月 79万 135万
6月 89万 152万

具体的には、きっちり何ヶ月とはならなかったり、入院期間と通院期間があった場合があるため、慰謝料の計算はより複雑になります。

後遺障害慰謝料の相場

自賠責基準
自賠責基準の後遺障害慰謝料は以下の表になります。

等級 後遺障害慰謝料
1級 1100万
2級 958万
3級 829万
4級 712万
5級 599万
6級 498万
7級 409万
8級 324万
9級 245万
10級 187万
11級 135万
12級 93万
13級 57万
14級 32万

任意保険基準
任意保険基準の場合、加害者が加入している保険会社により異なります。
一般的に、自賠責基準より高く、弁護士基準よりは低く算出されます。

弁護士基準
弁護士基準による後遺障害慰謝料は、以下の表になります。

等級 後遺障害慰謝料(平均)
1級 2800万
2級 2370万
3級 1990万
4級 1670万
5級 1400万
6級 1180万
7級 1000万
8級 830万
9級 690万
10級 550万
11級 420万
12級 290万
13級 180万
14級 110万

死亡慰謝料

自賠責基準
自賠責基準の場合、死亡事故の保険金の上限は3000万円です。この自賠責の保険金には、葬儀費用や、死亡逸失利益なども含まれます。

  • 交通事故における逸失利益とは、交通事故にあったことで、将来的に得られたはずの収入が失われたという損害です。

被害者本人への死亡慰謝料は350万円です。
遺族に対する慰謝料は、被害者に被扶養者がいるかいないかでも変わります。
具体的には、請求する遺族が1人だと550万、2人は650万、3人だと750万円となります。また、被害者に被扶養者がいる場合は、200万円追加されます。

例えば被害者に被扶養者がおらず、請求する遺族が3名の場合、
350万+750万円=1100万円となります。

また、被害者に被扶養者がいて、請求する遺族が2人の場合、
350万+650万円+200万=1200万円となります。

任意保険基準
任意保険基準による死亡慰謝料の相場は、自賠責基準よりは高額になりますが、弁護士基準に対しては500万~1000万程度低くなっています。

弁護士基準
弁護士基準による死亡慰謝料も、被害者の立場により変化します。

  • 被害者が一家の支柱の場合
  • 2800万円

  • 被害者が母親や配偶者の場合
  • 2500万円

  • 被害者が子供や高齢者、成人独身者の場合
  • 2000万~2500万円

交通事故によるその他の精神的苦痛

交通事故の被害者への慰謝料が、別途増額される精神的苦痛があります。

婚約が破談になってしまった

交通事故による後遺障害といったものが原因で、婚約が破談となってしまった場合です。
婚約が破談となった精神的苦痛は、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料では補えないため、慰謝料を増額し対応します。
しかし、慰謝料の増額が認められるためには、交通事故によって婚約が破談となったことを証明しなくてはなりません。

流産してしまった

交通事故によって流産してしまった場合です。
流産してしまった精神的苦痛は、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料では補うことはできません。胎児や妊婦の状況やその程度により、慰謝料を増額し対応します。
流産の場合も、交通事故によって流産したことが医学的に証明されなくてはいけません。
一般的に、妻が流産してしまった夫の精神的苦痛に対しては、慰謝料は認められません。

妊婦だった

交通事故の怪我により、妊娠中にもかかわらず腹部のレントゲン検査をする必要がある場合があります。その結果、人工中絶をすることになる可能性があります。この場合、交通事故による望まない人工中絶のため、慰謝料の請求が認められます。

物損事故による精神的苦痛はどうなる?

人身事故ではなく、物損事故の場合でも精神的苦痛で慰謝料は請求できるのでしょうか。

愛着のある車を壊された

交通事故によって、愛車を壊されたり傷つけられたことで、精神的苦痛を受けることが考えられます。しかし、たとえ思い入れの強い車であったとしても、あくまでも物として扱われます。物損事故の場合、人身事故よりも精神的苦痛は軽いと考えられます。そのため、慰謝料はほとんど認められません。

ペットが怪我をした、亡くなってしまった

ペットを家族と同じように大切に思う方も多いですよね。しかし、法律上は人間以外の動物を物として扱います。そのため、ペットのみの被害の場合、物損事故の扱いとなります。ペットの治療費や購入費は支払われても、原則として精神的苦痛への慰謝料は認められません。しかし、ペットが亡くなったことによる精神的苦痛に対し、慰謝料を認めた判例もあります。ただ、認められた場合であっても、慰謝料は少額です。

家が壊された

交通事故によって、車が家に突っ込み壊されたといった場合です。家が壊されただけで、怪我人がいないと物損事故になります。しかし、命を落としていた可能性もあるほど相手の行為が悪質で、被害者に大きな精神的苦痛を与えた場合には、慰謝料の請求ができます。

交通事故の慰謝料を受け取るためにするべきこと

交通事故の慰謝料を受け取るためには、被害者にもするべきことがあります。

①警察に届け出る
交通事故が発生したら、すぐに警察へ連絡しましょう。
交通事故を警察へ届け出ることは、法律上での義務となります。交通事故の事実を確認したと証明する交通事故証明書は、警察へ届け出なければ作成されません。

②加害者の連絡先や保険会社を確認する
まずは、相手の住所や氏名、電話番号などの連絡先を確認しましょう。
万が一ですが、嘘を言っている可能性も想定し、免許証や名刺を提示してもらうと安心です。また、車の登録番号や所有者も確認しておきます。社用車といった場合に、車の所有者が運転手ではないことがあるためです。
また、相手の加入する保険会社についても確認しておきます。治療費や慰謝料といった交渉は、基本的に相手側の保険会社の担当者と行うことになるためです。

③病院へ行き診断書を取得する
交通事故により怪我をした場合は、必ず病院へ行き診断書を取得しましょう。
交通事故における診断書は、怪我が交通事故によるものであるという因果関係を証明します。
また、軽い怪我や自覚症状があまりない場合でも、まずは病院へ行くことが大切です。交通事故の直後は、脳が興奮状態にあることで、あまり痛みを感じないことがあります。交通事故後に多く見られるむちうちは、翌日から数日後に痛みが現れる場合があります。

④人身事故として届け出る
交通事故により怪我をした場合は、人身事故として届け出ましょう。
すでに、物損事故として処理している場合でも、医師による診断書を警察に提出し、診断書が受理されると人身事故への切り替えが行われます。
物損事故扱いのままであっても、治療費や慰謝料を請求できる場合もあります。しかし、事故の被害者で怪我をしている場合は、人身事故として届け出る方が望ましいでしょう。

加害者が受けた精神的苦痛 被害者に請求できる?

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交通事故の加害者の場合、精神的苦痛による慰謝料を、被害者に請求することはできません。
交通事故には過失割合というものがあり、お互いにどれほど過失があったかを示します。
交通事故の被害者に過失がある場合は、過失割合に反映され、被害者へ支払われる慰謝料が減額されることになります。そのため、別途被害者に対し、慰謝料を請求することは基本的にできません。

人身傷害保険に加入していた場合

交通事故の加害者であっても、治療費や慰謝料などを受け取れることがあります。自分自身が加入する任意保険で、人身傷害保険や人身傷害特約などに加入している場合です。被害者の有無や過失割合にかかわらず、保険金を受け取ることができます。
しかし、具体的な内容に関しては、各保険の契約内容により異なります。一度自身の加入する任意保険の契約を確認しておくといいでしょう。

交通事故による精神的苦痛は賠償される

交通事故における慰謝料とは、被害者の精神的苦痛に対して支払われるものです。入通院慰謝料や後遺障害慰謝料などがあります。これらの慰謝料で補うことができない精神的苦痛に対しては、慰謝料を増額することで対応しています。