交通事故後、人身扱いにすることのメリットとは?切り替え方法も解説
交通事故は、人身事故と物損事故の2つに大きく分けられます。もしも交通事故にあってしまったら、人身事故と物損事故のどちらで処理をすればよいのでしょうか。
今回は、人身事故と物損事故の違いや人身事故への切り替え方法などについて、詳しくご紹介していきます。
人身事故と物損事故の違い
交通事故が起きると、人身事故と物損事故のどちらかで処理されます。人身事故は人が怪我をした事故、物損事故はモノが壊れた事故、と、大体の違いは分かっていても、具体的な違いは分からない方も多いのではないでしょうか。
そこでまずは、人身事故と物損事故がそれぞれどんな状態の事故で、どのような違いがあるのか説明していきます。
人身事故とは
人身事故とは、交通事故によって人が負傷したり、死亡してしまう交通事故のことをいい
ます。たとえ自動車が破損されたとしても、人に損害が加わった場合は人身事故となります。
実況見分が行われる
人身事故の場合、事故当事者双方が立ち会いの下、警察による実況見分が行われます。実況見分では、事故現場の状況や当事者双方の情報などが検証され、実況見分調書に記載されます。
人身事故で受け取れる損害賠償
交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償を請求することができます。主に怪我の治療費や通院にかかった際の交通費、休業損害や慰謝料の支払いが受けられます。
人身事故の損害賠償について詳しくは後述しますが、慰謝料は人身事故扱いの場合のみ請求が可能です。
物損事故とは
物損事故とは、交通事故による死傷者は発生せず、自動車や公共物などのモノのみが破損する交通事故のことをいいます。
実況見分調書は作成されない
物損事故の場合、実況見分調書は作成されません。物件事故報告書という、交通事故の概略が簡単にまとめられた書面のみが作成されます。
物損事故で受け取れる損害賠償
物損事故で請求できる損害賠償は、修理費や代車使用料など、モノの破損による損害のみです。
人身事故の加害者が負う3つの法的責任
人身事故の加害者になってしまった場合、行政処分、刑事処分、民事処分という3つの法的責任を負わなければいけません。それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
行政処分
行政処分の内容は、免許停止または免許取消です。
交通事故を起こすと、交通違反を起こした場合に加算される基礎点数と、交通事故による付加点数が、免許に加算されます。免許停止または取消のどちらになるかは、過去3年以内で免許に加算された合計点数によって処分がなされる、違反点数制度によって決められます。
交通違反による基礎点数
交通違反は一般違反行為と特定違反行為に分かれており、それぞれで加算される点数が異なります。
- 一般違反行為
危険性が低く特定違反行為以外の交通違反。踏切不停止等や駐停車違反、速度超過など違反内容によって1~25点が加算されます。 - 特定違反行為
故意による運転殺人や酒酔い運転、ひき逃げや麻薬等運転など、重大な危険を生じさせる違反行為。一般違反行為に比べて高い点数が加算されます。
交通事故による付加点数
交通事故を起こした場合に加算される付加点数は、被害者の負傷程度や加害者が負う過失の程度によって異なります。
付加点数の内容については、以下の表にまとめました。
交通事故による被害者の負傷程度 | 専ら加害者の違反行為によって交通事故が発生した場合 | 被害者にも過失がある場合 |
---|---|---|
死亡事故 | 20点 | 13点 |
治療期間が3ヶ月以上 または後遺障害が伴う 人身事故 |
13点 | 9点 |
治療期間が30日以上 3ヶ月未満 |
9点 | 6点 |
治療期間が15日以上 30日未満 |
6点 | 4点 |
治療期間が15日未満 または建造物損壊の事故 |
3点 | 2点 |
免許停止または免許取消になる点数
行政処分による免許停止または免許取消は、前歴の有無によって変わってきます。以下の表にまとめましたので、ご参考ください。
免許停止となる違反点数
前歴 | 点数 |
---|---|
1回 | 4点以上 |
2回 | 5点以上 |
1回 | 10点以上 |
なし | 15点以上 |
刑事処分
刑事処分では、罰金刑、懲役刑、禁固刑いずれかの刑事罰が科せられます。刑事処分は人身事故のみに適用され、物損事故では刑事処分を負うことはありません。
それでは、具体的にどのような罰則が科せられるのか、見ていきましょう。
過失運転致死傷罪
過失運転致死傷罪は、自動車やバイクを運転する上で必要な注意を怠ったことにより、人を死傷させた場合に科せられます。
過失運転致死傷罪による罰則は、7年以下の懲役または禁錮、または100万円以下の罰金となります。
危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪は、きわめて危険な運転で人を死傷させた場合に適用されます。危険運転致死傷罪の罰則は、被害者が死亡してしまった場合は1年以上の有期懲役(最大20年)、負傷の場合は15年以下の懲役が科せられます。
それでは、危険な運転とはどのような状態のことをいうのか、見ていきましょう。
酩酊運転・薬物運転
アルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為。
準酩酊運転・準薬物運転
アルコール又は薬物の影響により、正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で、自動車を運転する行為。
未熟運転
自動車の進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為。
制御困難運転
その信仰を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為。
進路妨害運転
人や車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、通行中の人や車に著しく接近すること。それに加え、重大な交通の危険を生じさせる速度で、自動車を運転する行為。
信号無視運転
赤信号を無視した上に、重大な交通の危険を生じさせる速度で、自動車を運転する行為。
通行禁止違反運転
通行禁止道路を進行し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。
病気運転
病気の影響により、運転に支障が生じるおそれがある状態で運転する行為。また、結果としてその病気の影響により、正常な運転が困難な状態に陥ったもの。
民事処分
民事処分とは、いわゆる損害賠償のことです。交通事故における損害賠償は、交通事故で被害者が負った様々な損害の埋め合わせを、加害者が金銭によって補うことです。
人身事故の被害者に支払われる損害賠償は、積極損害、消極損害、慰謝料の3つに分けられます。
積極損害
積極損害とは、交通事故によって被害者の出費を余儀なくされた場合に、発生する損害です。
具体的には、以下の内容が含まれています。
- 治療費
- 通院交通費
- 入院費
- 入院雑費
- 装具・器具等の購入費
- 手術費 など
消極損害
消極損害は、交通事故にあったことによって、被害者が将来的に得られるはずであった収入や利益が、減少してしまった場合の損害をあらわします。
消極損害の中には、怪我を治療するために会社を休んだことで減少してしまった収入を補う休業損害と、後遺障害になったことで被害者の労働能力が低下してしまい、本来得られるはずであった収入が損失してしまった場合の逸失利益を請求することができます。
慰謝料
慰謝料とは、交通事故によって被害者が負った精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったものです。被害者が請求できる慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があります。これらの慰謝料は、計算する際に用いる、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準という3つの基準によって、金額が異なります。
物損事故から人身事故への切り替え方法
交通事故後に痛みや違和感がなく、自動車が破損しただけの場合、物損事故で処理してしまうことも多くあるかと思います。しかし、交通事故後の処理は人身事故扱いにしたほうがよいでしょう。
物損事故から人身事故へ切り替える方法は、以下の通り。
- ①病院へ行き医師の診断書を取得する
- ②事故の対応を行った警察に、人身事故に切り替えたい旨を連絡する
- ③警察へ診断書を持っていき、人身事故切り替えの手続きを行う
人身事故切り替えの手続きに、法的な期限はありません。しかし、交通事故から時間が経過しすぎていると、事故と怪我との因果関係を疑われてしまい、人身事故に切り替えられない可能性があります。すくなくとも、交通事故から10日以内には診断書を取得し、警察で手続きを行うようにしましょう。
人身事故扱いにすることのメリット
物損事故から人身事故へ切り替えると、被害者はどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
損害賠償が増額する
交通事故後に体に痛みがあらわれ、病院へ行ったとしても、物損事故で処理されている場合は治療費を負担してもらうことはできません。また、物損事故の場合は慰謝料も発生しません。
しかし、人身事故に切り替えることで、治療費や慰謝料、休業損害や逸失利益など、怪我に対する損害賠償を受け取ることができます。したがって、人身事故で処理した方が、被害者が最終的に受け取れる示談金の増額につながるのです。
交通事故は人身での手続きを
いかがでしたか。交通事故による怪我は、事故後すぐに症状があらわれるとは限りません。したがって、交通事故後は痛みや違和感がなくとも、人身事故で処理することが大切です。