交通事故で車が廃車に…被害者が請求できる保険金とは?
交通事故の被害にあい、廃車になってしまった場合、廃車にするための手続きや車の買い替えを行うには、様々な費用がかかります。交通事故で車が廃車になった場合、加害者側の保険会社はどこまで負担してくれるのか、疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、交通事故で車が廃車になった場合の補償範囲について解説していきます。
廃車とは?
廃車とは、交通事故や故障などにより、車の使用を取りやめることをいいます。
廃車となる理由は、大きく分けて3つ。
- 1.車を所有してから時間が経過し、老朽化したことによる経年廃車
- 2.なんらかのトラブルや故障による用途廃車
- 3.交通事故や地震、台風などによる事故廃車
今回は、3つめの理由である事故廃車について、詳しく解説していきます。
事故廃車になってしまった場合
事故廃車になってしまった場合、全損に該当します。
交通事故による車の全損には、以下のような2つの意味があります。
- 物理的全損:交通事故にあった車(以下「事故車両」)が完全に破壊され、修理ができない状態のこと
- 経済的全損(※):「事故車両の修理代」が「車の時価額」を上回った状態のこと
※ 経済的全損の場合は、同じ型・年代の車に買い替えた方が、修理をするよりも費用を安く済ませることができます。
車の時価額とは?
時価額は、オートガイド社が発行している「オートガイド自動車価格月報(通称「レッドブック」)」という書籍に記載されています。レッドブックでは、各メーカーの車種や年式、型式ごとの中古車価格を調べることができます。
ほとんどの保険会社は、レッドブックを基準に、被害者に対して時価額の支払いを行います。たとえ「事故車両の修理代」が「時価額」を上回ったとしても、被害者に支払われるのは時価額のみです。反対に、「事故車両の修理代」が「時価額」を下回った場合、被害者に支払われるのは事故車両の修理代のみとなります。
レッドブックには、販売から約5~7年程度の車両を掲載しています。つまり、販売から8年を超えた車両の時価は、レッドブックで知ることができません。販売から8年を超えた車両の時価は、一般的に新車の10%程度になるといわれています。ただし、中古車市場において高額で取引されるような車種の場合は、賠償額が上がることもあります。
廃車になった場合に受け取れる損害賠償
事故車両が全損になり、廃車になってしまった場合、被害者は加害者側の保険会社に対して損害賠償を請求することができます。
加害者側の保険会社から支払われる損害賠償は、以下の通りです。
- 車両の買い替えにかかる費用
- 登録手続き関係費
- 休車損害
- 代車使用料
一つひとつの内容を、詳しく見ていきましょう。
車両の買い替えにかかる費用
事故車両が全損になり、修理をすることも困難な場合、車を買い替えなければいけません。車両の買い替えにかかる費用は、対物賠償保険によって負担してもらうことができます。
しかし、新車代金の全額を請求できるわけではありません。前述したように、被害者に支払われる車体費用は、事故車両の時価額のみです。
車両の買い替えではなく修理を行うという場合は、対物差額修理費用補償特約を利用することができます。対物差額修理費用補償特約とは、対物賠償保険を契約する際に付けることができる特約です。
事故車両の修理費が時価額を超えた場合、50万円を限度として差額分の支払いが行われます。対物差額修理費用補償特約は、修理を行う場合のみ適用されます。したがって、車両の買い替えのために使うことはできません。
登録手続き関係費
登録手続き関係費とは、事故車両が廃車になり、車両の買い替えを行わなければいけない場合に必要な費用のことをいいます。
被害者が請求できる登録手続き関係費は、以下の通りです。
- 自動車移転登録費用
- 車庫証明費用
- 廃車費用等法定費用
- 自動車取得税
- 廃車解体処分費用
- リサイクル料金
- ディーラーへの登録・車庫証明・納車整備・廃車手続き手数料・代行費用
- 車両購入価格に対する消費税
事故車両が廃車になった場合、自動車税、自動車重量税、自賠責保険料は、被害者へ還付されます。よって、損害として認められず、加害者に対して請求することはできません。
休車損害
交通事故で全損扱いになった車を仕事で使用していた場合、新車に買い替えるまでの間や仕事に支障が出たりなど仕事をする際に支障をきたす可能性もありますよね。その場合、時価分の損害賠償を支払ってもらうだけでは、損害の全てを補えたといえないでしょう。
そこで、仕事で使用していた車が廃車になり使用できなかったときには、本来仕事をしていれば得られた利益を休車損害として、加害者に請求することができます。
休車損害の算出方法は、以下の通りです。
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(事故車両で得られたはずの営業収入-経費)/日×買い替えまでの日数
ただし、会社に他に使用できる車があった場合は、通常休車損害は認められません。また、事故車両に積み荷を積み、交通事故で積み荷が破損して被害を受けた際には、積荷分も損害賠償請求をすることが可能です。
代車使用料
事故車が全損し、車両の買い替えを行う場合、買い替えが終了するまで車を使用することができません。代車使用料とは、車両買い替えが終了するまでの間に借りた、レンタカーの金額のことです。
代車使用料は、全額を負担してもらえるとは限りません。
代車使用料の請求に必要な条件は、2つ。
- 代車を使用する必要性
- 代車使用料の相当性
代車を使用する必要性
事故車両を通勤や仕事で使用していた場合や、日々の生活をする上で具体的に使用する必要性があった場合は、代車を使用する必要性が認められやすくなります。
しかし、通勤や日常生活で事故車を使用していたとしても、バスや電車、タクシーなどの公共交通機関を利用することで代替できる場合は、代車の必要性を否定される場合があります。
代車使用料の相当性
代車使用料の相当性では、車両の買い替えまでに必要な期間が考慮されています。車両の買い替えを行うのにふさわしい期間がかかった場合、代車使用料の請求を行うことができます。一般的に、車両の買い替えに必要な期間は2週間~1ヶ月程度といわれています。
車が壊れた場合に受け取れる損害賠償
全損とまではいかないが、交通事故で車が壊れた場合、その他にも請求できる損害賠償があります。しかし、以下の損害賠償は、請求できる条件があるので、注意しましょう。
修理費
交通事故で車が壊れたが、全損まで至らなかった場合の損害賠償として請求できるのが、修理費です。
ただし、修理費は、車を修理する必要性と修理費用の相当性が認められる場合のみ、損害として認められます。必要のない修理を行った場合、修理費の相当部分を超える金額は、損害賠償の対象とならないので注意しましょう。
評価損
先程と同様で、交通事故で車が壊れたが全損まで至らなかった場合に、請求できる損害賠償です。交通事故にあった車の修理後も残った機能・外観面での欠陥や、交通事故が原因で査定額の下がった分に相当する金額を評価損といいます。
評価損の中でも、機能・外観面での欠陥による市場価値の低下は、損害として賠償の対象です。しかし、事故車になったことで車の価値が低下した場合は、損害として認められないこともあります。
評価損は、事故にあった車の車種や年式、走行距離などに加え、事故で壊れた場所や修理費用などから損害賠償が計算されます。結果、修理費の20~30%が損害として認められることが多いです。
事故で廃車になったときに使える自分の保険
全損で自分の保険を使う場合、適用される保険は以下の通りです。
- 車両保険
- 新車特約
- 全損超過修理特約
- 代車費用特約
一つひとつの内容を詳しく見ていきましょう。
車両保険
事故車両が全損になった場合は、「車両保険金満額」を受け取ることができます。
車両保険金満額とは、同じ型の車の中古車市場価格のことをいいます。車両保険金満額は保険会社がレッドブックを参考にして決めています。
また、「臨時費用保険金」の支払いを受けることもできます。
臨時費用保険金は、車両保険金額とは別に支払われます。被害者は、車両保険金額に10~20%プラスした保険金を受け取ることができます。
新車特約
新車特約は、新車の購入にかかる費用を補償する特約です。保険契約の際に設定された金額の範囲内であれば、被害者が費用を負担することなく新車の購入をすることができます。
新車特約は、以下の条件のどちらかを満たすことで利用することができます。
- 交通事故によって車が全損になった場合
- 事故車両の損害額が保険契約時に設定した新車価格相当額の50%以上になった場合
全損超過修理特約
事故車両の修理費が時価額を超えた場合、加害者側の対物賠償保険から支払われるのは、時価額分のみとなります。そのため、修理費の一部を被害者が負担しなければなりません。
しかし、全損超過修理特約を使えば、時価額をの差修理費が額分を支払ってもらうことができます。ただし、被害者にも過失が認められている場合は、差額分に過失割合を乗じた金額が支払われます。したがって、被害者に支払われる修理費が減額される可能性があるのです。
また、全損超過修理特約は、修理をすることが前提の場合のみに適用されるものです。買い替えの場合には適用されないので注意しましょう。
では、いくつかの例を挙げて具体的に計算してみましょう。
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例)修理費50万円、時価額30万円、過失割合100:0(加害者:被害者)の場合
加害者側の対物賠償保険から支払われる金額 → 時価額30万円
被害者の全損超過修理特約から支払われる金額 → 修理費50万円-時価額30万円=差額分20万円
例)修理費50万円、時価額30万円、過失割合70:30(加害者:被害者)の場合
加害者側の対物賠償保険から支払われる金額 → 時価額30万円
被害者の全損超過修理特約から支払われる金額 → 差額分20万円×過失割合30%=6万円
代車使用料
被害者に過失割合がない場合、車両の修理期間や買い替え期間に応じて代車使用料が支払われます。
ただし、納車が終了するまで代車使用料が支払われるとは限りません。中古車を購入する場合、被害者に支払われる代車使用料は約2週間分といわれています。なぜなら、中古車には製造の過程がないため、1~2週間程度で納車が終了するからです。
事故で廃車になった場合の保険についてまとめ
交通事故で車が全損すると、その車は廃車になってしまうことがあります。廃車になり車両の買い替えを行う際、買い替え費用のすべてが被害者に支払われるとは限りません。
しかし、自動車保険契約の際に付けた特約を利用することで、買い替え費用を補うことができます。今一度、自身が加入している自動車保険の内容を確認するとよいでしょう。