交通事故の民事裁判と刑事裁判の違いとは?裁判が行われるまでの流れ

2019年02月04日

交通事故が起きると、様々な問題が発生します。加害者は、被害者に対して損害賠償の支払いを行わなければいけません。最悪の場合、被害者が命を落としてしまうこともあります。

交通事故における様々な問題は、最終的に「裁判」を行い、加害者に判決が下ることで解決します。裁判には「民事裁判」と「刑事裁判」がありますが、それぞれどのような流れで行われ、どんな違いがあるのでしょうか。

今回は、

  • 交通事故の加害者が負う法的責任
  • 民事裁判と刑事裁判が行われるまでの流れ
  • 民事裁判と刑事裁判の違い

などについて、詳しく解説していきます。

交通事故の加害者が負う法的責任とは?


交通事故の加害者は、3つの法的責任を負うことになります。

  • ①行政責任
  • ②民事責任
  • ③刑事責任

それぞれの内容について、解説していきます。

①行政責任は「違反点数」に応じて科せられる

行政責任とは、交通事故や交通違反を起こした場合に、行政庁によってペナルティが課せられる責任のことをいいます。


交通事故や交通違反を起こすと、運転者に対して違反点数が加算されます。一定の点数がたまると、その点数に応じてペナルティが課せられます。加害者に課せられるペナルティの内容は、免許の停止や取り消し、反則金の支払いがあります。

②民事責任は「損害賠償」のこと

交通事故の加害者が負う民事責任とは、いわゆる「損害賠償」のことです。

損害賠償とは、交通事故によって被害者が負った様々な損害に対して、加害者がその損害の埋め合わせを行うことです。

損害賠償として支払われるもの3つ

加害者が被害者に対して支払う損害賠償は、3つ。

  • 積極損害
  • 交通事故の被害者が、事故によって出費を余儀なくされた場合に発生する損害を補償。

  • 消極損害
  • 交通事故の被害者が、事故によって本来得られるはずであった収入や利益が減少した場合の損害を補償。

  • 慰謝料
  • 交通事故によって被害者が負った精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったもの。

▶︎参考:交通事故の損害賠償について、詳しく知りたい方はこちら!

順調にいけば示談で解決される

損害賠償についての問題は、被害者と加害者側の保険会社との示談が成立することで解決されます。示談とは、交通事故の被害者に支払われる損害賠償金額について、被害者と加害者側の保険会社が話し合い、お互いが納得・和解することをいいます。

示談で解決されない場合は?

交通事故の損害賠償で発生する全ての問題が、すべて示談で解決されるとは限りません。示談が順調に進まない場合、裁判を行わずに民事紛争を解決するADR機関によって、「和解・あっ旋」が行われます。

和解・あっ旋では、あっ旋人が被害者と加害者の間に立ち、お互いの話し合いを進めることで解決を図ります。あっ旋人が解決案を提示することもありますが、和解・あっ旋の目的は「交通事故の当事者同士で交渉を行い、解決すること」であるため、解決案を拒否することもできます。

和解・あっ旋によっても解決されない場合は、裁判所での「調停」が行われます。調停委員という第三者が仲介人となり、裁判所で話し合いを行うことによって解決を図ります。調停は裁判所で行われますが、加害者に対して判決を下すものではありません。あくまでも話し合いによって解決することが目的とされています。調停で決められた内容は調停調書という書面に残され、加害者は絶対に守らなければいけません。

「民事裁判」に発展することも

調停を行っても解決されない場合は、最終手段である「裁判」を起こすことができます。

裁判は、「刑事裁判」と「民事裁判」の2つに分かれています。刑事裁判について詳しくは後述しますが、交通事故の損害賠償問題については、「民事裁判」によって解決されます。

民事裁判が行われるまでの流れ

民事裁判は、成人の場合は1人で、未成年であれば法定代理人が代わりとなり、誰でも起こすことが可能です。

それでは、民事裁判が行われ、加害者に判決が下るまでの流れを見ていきましょう。

交通事故当事者どちらかによる訴えの提起

民事裁判は、交通事故の被害者と加害者、どちらかが訴えを起こすことによって始まります。訴えを起こした方が「原告人」、訴えられた方が「被告人」と呼ばれます。一般的には被害者が原告人、加害者が被告人となるケースが多いですが、逆になるケースもあります。

損害賠償金額によって裁判所が異なる

民事裁判では、被害者が加害者に対して求める損害賠償金額によって、裁判所が変わってきます。

  • 求める損害賠償金額が140万円以下 → 簡易裁判所
  • 求める損害賠償金額が140万円以上 → 地方裁判所

また、求める損害賠償金額が60万円以下の場合は、少額訴訟として扱われます。少額訴訟は、交通事故の当事者双方になるべく負担をかけず、問題を早期解決することが目的とされています。原則として、1日を期日に審理が終えられます。

裁判の途中で和解することも

民事裁判は、最終的に加害者に対して判決が下ることで解決となります。しかし、裁判の途中で和解し、解決するケースも少なくありません。

裁判所によって作成される和解調書は、確定判決と同等の効力を持っています。

被告人に対する判決が決定する

被告人は、民事裁判によって決められた判決に、必ず従わなければいけません。

もしも判決に納得がいかない場合は、上級裁判所へ上訴することができます。上訴とは、第一審の判決に対する不服「控訴」と、第二審に対する不服「上告」を合わせたものです。上訴では、訴訟の手続きを再び行うことになります。判決が下されてから一定期間経過すると、確定判決となってしまうので注意しましょう。

③刑事責任は「犯罪行為」に与えられるもの

「刑事責任」は、自分が起こした交通事故によって人を死傷させてしまった場合に、加害者が負わなければいけない責任です。

最終的には刑事裁判が行われ、加害者に科せられる刑罰が決定します。

加害者に科せられる刑罰は2種類

交通事故の加害者に科せられる刑罰は、「過失運転致死傷罪」と「危険運転致死傷罪」の2つ。

  • 過失運転致死傷罪
  • 加害者の不注意によって相手を死傷させてしまった場合に適用される刑罰。7年以下の懲役もしくは禁固、または100万円の罰金が科せられます。

  • 危険運転致死傷罪
  • 正常な運転が困難なほどの薬物使用運転や飲酒運転、信号無視など、自動車の危険な運転によって相手を死傷させた場合に適用される刑罰。相手が負傷した場合は1月以上12年以下の懲役、相手を死亡させてしまった場合は1月以上15年以下の懲役が科せられます。

「刑事裁判」による判決で刑罰が下る

交通事故の加害者に科せられる刑罰は、「刑事裁判」で判決が下ることによって決められます。刑事裁判とは、刑罰が設けられている法律を犯した者(犯罪者)に対して、国が処罰を与える裁判のことです。加害者に下される刑罰には、罰金刑や懲役刑などがあり、執行猶予がつくこともあります。

▶︎参考:交通事故で執行猶予がつく条件について、詳しく知りたい方がこちら!

刑事裁判を行うにあたって、裁判所へ起訴できるのは検察官のみです。被害者本人が裁判所に対して、直接起訴することはできません。

刑事裁判が行われるまでの流れ

ひき逃げや飲酒運転などの悪質な交通事故や、被害者が死亡してしまった場合は、刑事裁判となる可能性が高くなります。

それでは、刑事裁判が行われるまでの流れを見ていきましょう。

交通事故発生後、加害者を逮捕

交通事故が発生すると、加害者がひき逃げをした場合を除き、その場で逮捕されることがほとんどです。しかし、加害者が逃亡する恐れがなかったり、証拠隠滅をする可能性がない場合は逮捕されず、身柄を拘束しない在宅捜査になるケースもあります。

警察による取り調べ

交通事故の加害者が逮捕された後は、留置場で身柄を拘束され、警察による取り調べが行われます。取り調べでは、交通事故の内容について聞き出されます。決して嘘の供述はしないようにしましょう。

検察官へ事件を送検

警察からの取り調べが終了すると、48時間以内に検察官へ事件が送検されます。そして、24時間以内に交通事故の加害者が拘留(※1)されるか、書類送検(※2)となるかが決定します。

(※1)刑の一種。1日以上30日未満の期間、刑事施設に身柄を拘束すること。
(※2)加害者の身柄を拘束することなく、書類によって起訴をするかどうかの判断を行うこと。

検察官による起訴または不起訴の判断

拘留期間が終了すると、検察官が加害者を起訴または不起訴にするかの判断を行います。
刑事裁判の起訴には「略式起訴」と「公判請求」があります。

  • 略式起訴
  • 裁判所での公判は行われず、加害者に対して罰金処分の通知が送られる。

  • 公判請求
  • 裁判所で公判が開かれ、加害者が有罪または無罪であるか、また刑罰の量刑が決定される。

不起訴となった場合は、裁判所に起訴されていないということになるため、刑事裁判は行われません。また、加害者に対して前科がつくこともありません。

民事裁判と刑事裁判の違い

交通事故の刑事裁判と民事裁判について、お分かりいただけたでしょうか。
ここでは、交通事故における民事裁判と刑事裁判の違いについて解説していきます。

取り扱う事件の違い

民事裁判は、交通事故の被害者に支払われる「損害賠償」の問題を解決するために開かれる裁判です。一方で刑事裁判は、刑法に違反して起訴された者に対して、「刑罰を下す」ために行われます。

起訴できる人の違い

民事裁判は、交通事故の被害者本人が、裁判所に対して起訴することができます。前述したように、被害者が成人していなくとも、法定代理人が代わりとなって起訴することができます。

刑事裁判では、裁判所に対して起訴できるのは検察官のみです。被害者本人が起訴することはできません。

和解があるかどうかの違い

民事裁判では、交通事故の当事者双方が納得できれば解決となるため、判決までいかず裁判の途中で和解するケースも多くあります。

一方で刑事裁判は、加害者に対して刑罰が科されるべきかどうかを、国が判断するものです。そのため和解というものはなく、加害者には有罪か無罪であるかの判決が下されます。

交通事故で発生する責任を理解しておこう

交通事故における問題を解決する最終手段は、裁判を起こし、加害者に判決が下ることによって解決されます。裁判には「民事裁判」と「刑事裁判」があり、それぞれで取り扱う事件の内容や起訴までの流れが異なります。裁判で判決が下ると、加害者には前科がついてしまいます。日頃から安全運転を心がけ、交通事故が起きることを防ぎましょう。