交通事故の慰謝料を弁護士基準で請求する方法とは?
交通事故の慰謝料の計算には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準という3つの計算基準が使われます。そのうち、弁護士基準を使うと、慰謝料を増額することができます。
そこで今回は、弁護士基準の慰謝料計算について(他の基準との差、弁護士基準を使うための条件など)解説していきます。
もくじ
交通事故の被害者が受け取れる慰謝料とは?
冒頭で「交通事故の被害者は慰謝料を受け取ることができる」と述べましたが、「そもそも慰謝料って何?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
慰謝料とは、交通事故が原因で被害者が受けた精神的苦痛の対価として加害者が支払うものです。
慰謝料の支払いは、まず加害者側の自賠責保険から行われます。自賠責保険の限度額である120万円を超えた場合は、加害者側の任意保険が不足分を補ってくれます。しかし、加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者本人に対して請求することになります。
慰謝料が発生するのは人身事故のみ
交通事故は、大きく「人身事故」と「物損事故」に分けることができます。
- 人身事故
- 物損事故
交通事故によって怪我人や死亡者が発生する事故。
交通事故による死傷者は発生せず、車や公共物などのモノのみが破損する事故。
被害者が慰謝料を請求することができるのは、です。物損事故で処理をした場合、被害者に対する慰謝料の支払いは行われません。物損事故で被害者が受け取ることができるのは、車の修理代や代車使用料など、モノに対する損害賠償のみです。
物損事故から人身事故への切り替え方法
交通事故による怪我の症状は、事故後すぐににあらわれるとは限りません。事故直後は物損事故で処理をしてしまった場合でも、痛みや違和感を感じたら人身事故への切り替えを行いましょう。
物損事故から人身事故へ切り替えるには、病院で取得できる診断書を、警察に提出する必要があります。交通事故後、少しでも体に痛みや違和感を感じたら、早急に病院へ行き診断書を取得するようにしましょう。
▶︎参考:交通事故の治療は病院だけ?通院先の種類について、詳しく知りたい方はこちら!
警察へ診断書を提出するまでに法的な期間はありませんが、事故後10日以内を目安に手続きを行うのが最適です。交通事故から時間が経過しすぎていると、交通事故と怪我との因果関係が明確でないという理由で、人身事故へ切り替えられない可能性があります。
交通事故の慰謝料は3つ
交通事故の被害者が請求できる慰謝料は、3つ。
- ①入通院慰謝料
- ②後遺障害慰謝料
- ③死亡慰謝料
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
①入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故の怪我で入通院をする際に、被害者が感じた精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったものです。
入通院慰謝料の金額は、入院期間の有無や通院期間の長さによって異なります。
②後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故の怪我が後遺障害になってしまったことによって、被害者が感じた精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったものです。
後遺障害には、1級から14級までの後遺障害等級が割り当てられています。1級が最も重症で、14級が最も軽症となります。後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害の症状が重くなるにつれて上がっていきます。
③死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、交通事故で被害者が死亡してしまった場合に、被害者が負った精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったものです。被害者本人は受け取ることができないため、損害賠償請求権は相続人である遺族に引き継がれます。
死亡慰謝料は、「亡くなった被害者本人に対する慰謝料」と「被害者の遺族に対する慰謝料」の2つに分かれています。
交通事故の慰謝料を計算するための基準
慰謝料の計算は、3つの基準をもとに行われています。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
それぞれの基準について、詳しく解説していきます。
自賠責基準
自賠責基準は、すべての運転者に加入が義務付けられている自賠責保険を基準としたものです。
自賠責保険は、人身事故のみに適用され、限度額は120万円となっています。自賠責保険の目的は、交通事故の被害者が負った損害の保障を、最低限行うことです。したがって、自賠責基準による慰謝料の金額は、3つの基準の中で最も低く設定されています。
任意保険基準
任意保険基準とは、運転者の任意で加入を決めることができる、任意保険を基準としたものです。
任意保険は、損害賠償の金額が自賠責保険の限度額を超えた場合に、不足分を補う役目を果たしています。任意保険基準は各任意保険で基準が異なるため、ほとんど公表されていません。一般的には自賠責基準よりも高額になり、弁護士基準よりは低額になるといわれています。
弁護士基準
弁護士基準は、交通事故における過去の判例を参考にしたものです。裁判を行う際も用いられるため、裁判所基準ともよばれています。
弁護士基準による慰謝料の金額は、3つの基準の中で最も高額になるといわれています。
弁護士基準は「赤い本」をもとに算出
弁護士基準での慰謝料は、新しい判例が出るたびに更新されるため、年が変わるごとに金額も変わっていきます。
弁護士基準による慰謝料は、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という法律書に記載されています。表紙が赤くなっているため、通称「赤い本」とよばれています。
赤い本に記載されている弁護士基準の慰謝料は、弁護士会が交通事故における過去の判例を調査・分析した上で、まとめられたものです。
弁護士基準と自賠責基準の慰謝料金額の差
前述したように、弁護士基準による慰謝料の金額は、3つある計算基準の中で最も高額になります。
それでは、自賠責基準と弁護士基準では、慰謝料の金額に一体どれくらいの差が生じるのでしょうか。入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料、それぞれの金額を比べてみましょう。
入通院慰謝料
それではまず、自賠責基準での入通院慰謝料の計算方法をご紹介します。
-
入通院慰謝料の計算を行うには、まず以下2つの計算を行います。
① 治療期間 = 入院期間 + 通院期間
② 実通院日数 = (入院期間 + 実通院日数 ) × 2
次に、①と②の計算結果を比べ、少ない方に4,200円を掛けます。
その金額が、自賠責基準による入通院慰謝料の金額です。
具体例を上げて、自賠責基準の入通院慰謝料を計算してみましょう。
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例)交通事故で怪我を負い、入院期間なし、通院期間90日(3ヶ月)、実通院日数65日の場合の入通院慰謝料。
① 治療期間 = 90
② 実通院日数 = 65 × 2 = 130
①と②の計算結果を比べると、①の方が少ないので、
90 × 4,200 = 378,000
したがって、この場合の自賠責基準による入通院慰謝料は、37万8,000円。
続いて、弁護士基準による入通院慰謝料の金額をご紹介します。
弁護士基準による入通院慰謝料は、通院期間と入院期間、それぞれの期間がどれくらいの長さであるかによって、金額が変わってきます。ただし、通院期間が1年以上などと長い上に、通院頻度が少なすぎる場合は、例外となります。例外となった場合、実通院日数の3.5倍が通院期間とみなされるため、慰謝料が減額される可能性があります。
通院期間 | 入通院慰謝料 | 入院期間 | 入通院慰謝料 |
---|---|---|---|
1ヶ月 | 28万円 | 1ヶ月 | 53万円 |
2ヶ月 | 52万円 | 2ヶ月 | 101万円 |
3ヶ月 | 73万円 | 3ヶ月 | 145万円 |
4ヶ月 | 90万円 | 4ヶ月 | 184万円 |
5ヶ月 | 105万円 | 5ヶ月 | 217万円 |
6ヶ月 | 116万円 | 6ヶ月 | 244万円 |
7ヶ月 | 124万円 | 7ヶ月 | 266万円 |
8ヶ月 | 132万円 | 8ヶ月 | 284万円 |
9ヶ月 | 139万円 | 9ヶ月 | 297万円 |
10ヶ月 | 145万円 | 10ヶ月 | 306万円 |
11ヶ月 | 150万円 | 11ヶ月 | 314万円 |
12ヶ月 | 154万円 | 12ヶ月 | 321万円 |
13ヶ月 | 158万円 | 13ヶ月 | 328万円 |
14ヶ月 | 162万円 | 14ヶ月 | 334万円 |
15ヶ月 | 164万円 | 15ヶ月 | 340万円 |
先ほど自賠責基準の入通院慰謝料を計算した際、通院期間を90日(3ヶ月)と設定した場合、入通院慰謝料の金額は約38万円でしたね。弁護士基準による通院期間3ヶ月の入通院慰謝料は、73万円となっています。
したがって、自賠責基準と弁護士基準では、入通院慰謝料に約2倍の差が生じていることが分かります。
後遺障害慰謝料
ここでは、自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料をご紹介します。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1,100万円 | 2,800万円 |
2級 | 958万円 | 2,370万円 |
3級 | 829万円 | 1,990万円 |
4級 | 712万円 | 1,670万円 |
5級 | 599万円 | 1,400万円 |
6級 | 498万円 | 1,180万円 |
7級 | 409万円 | 1,000万円 |
8級 | 324万円 | 830万円 |
9級 | 245万円 | 690万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
11級 | 135万円 | 420万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料を比べると、約3.5倍もの差が発生します。
死亡慰謝料
前述したように、死亡慰謝料は「亡くなった被害者本人に対する慰謝料」と「被害者の遺族に対する慰謝料」の2つに分かれています。自賠責基準と弁護士基準で金額が変わるのは、「亡くなった被害者本人に対する慰謝料」のみです。
亡くなった被害者本人に対する慰謝料
亡くなった被害者に支払われる死亡慰謝料の金額は、被害者の立場によって異なります。
被害者の立場 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
一家の支柱 | 350万円 | 2,800万円~3,600万円程度 |
母親・配偶者 | 350万円 | 2,000万円~3,200万円程度 |
独身者 | 350万円 | 2,000万円~3,000万円程度 |
子ども | 350万円 | 1,800万円~2,600万円程度 |
高齢者 | 350万円 | 1,800万円~2,400万円程度 |
自賠責基準では、被害者がどのような立場であっても一律350万円となっています。弁護士基準では、被害者の立場によって金額が変わる上に、自賠責基準と比べて大幅に増額していることが分かります。
被害者の遺族に対する慰謝料
被害者の遺族に対する慰謝料は、計算基準によって金額が変わることはありません。死亡慰謝料請求者の数と、被害者に養われていた者(被扶養者)がいたかどうかで、金額が変わってきます。
請求者の人数 | 死亡慰謝料 | 被扶養者がいた場合 |
---|---|---|
1人 | 550万円 | +200万円 |
2人 | 650万円 | +200万円 |
3人 | 750万円 | +200万円 |
交通事故の慰謝料を弁護士基準で得るには?
自賠責基準と弁護士基準による慰謝料の差について、お分かりいただけたでしょうか。
それでは、弁護士基準での慰謝料を獲得するには、どうしたらよいのでしょうか。
示談交渉を弁護士に依頼
交通事故における様々な問題は、被害者と加害者側の保険会社が話し合いを行い、示談が成立することで解決されます。
示談交渉を行う際、加害者側の保険会社への対応を弁護士に依頼することで、弁護士基準での慰謝料を請求することができます。また、示談交渉を弁護士に依頼することで、被害者の精神的ストレスも軽減することができます。
弁護士特約の確認を忘れずに
示談交渉を弁護士に依頼すると、被害者が負担する弁護士費用が発生します。弁護士費用が高額になってしまった場合、思っていたよりも慰謝料の増額がされない可能性があります。
ただし弁護士費用は、弁護士特約に加入していることで補ってもらうことができます。示談交渉を弁護士に依頼する際は、自身が加入している保険内容を確認してからにしましょう。
▶︎参考:弁護士特約の使用方法について、詳しく知りたい方はこちら!
交通事故の慰謝料は弁護士基準で増額できる
交通事故の慰謝料を計算する際に使われる基準は、3つ。
- ①自賠責基準
- ②任意保険基準
- ③弁護士基準
弁護士基準で慰謝料を請求すると、他の基準に比べて大幅な増額を期待することができます。弁護士基準で慰謝料を請求するには、示談交渉を弁護士に依頼する必要があります。弁護士特約への加入を確認した上で、弁護士に相談してみましょう。