追突事故で被害者が請求できる慰謝料の相場は?
交通事故には、追突事故や衝突事故、接触事故など様々な種類があります。その中でも、追突事故の発生状況は、交通事故の全体発生数の中で最も高い割合を占めています。
追突事故にあうと、被害者は怪我を負ってしまう場合があります。怪我の治療をする際の治療費や通院交通費は、加害者に慰謝料として請求することができます。
今回は、
- 追突事故で被害者が受け取れる慰謝料
- 追突事故で負いやすい怪我
- 慰謝料を増額する方法
などについて、詳しく解説していきます。
もくじ
追突事故とは
追突事故とは、
停止または低速で前進している車両の後部に、後続の車両が前進して衝突する類型の交通事故である。
といわれています。
追突事故は、後方車が他の物に意識を取られていたり、脇見運転などが原因で起こります。他にも、前方車のウインカーを出すタイミングや、ブレーキを踏むタイミングが遅い場合に発生することもあります。
追突事故が起きた場合、追突した側は怪我を負わず、追突された側のみ怪我を負うパターンがほとんどです。しかし、トラックやバスなどの大型車に追突した場合は、追突した側が怪我を負う場合もあります。
過失割合は100:0が原則
追突事故が起こった場合の過失割合は、100:0(追突した側:追突された側)になるのが原則です。しかし、被害者が注意をすれば追突事故を避けることができた、という場合は、被害者に過失が認められる場合もあります。
加害者から「追突事故が起きたのは、前の車が急ブレーキをかけたからだ」と言われることがありますが、この場合でも原則として、被害者に過失が認められることはありません。なぜなら、前方者が急停止した場合でも追突を避けられるよう、後方車はある程度の車間距離を保ちながら運転しなければいけないためです。これは、道路交通法第27条「車間距離の保持」によって定められています。
被害者の保険会社は示談交渉を行ってくれない
前述したように、追突事故の被害者に過失割合が認められることはほとんどありません。
被害者に過失割合が認められない場合、被害者側の保険会社は、加害者側の保険会社との示談交渉は行ってくれません。
被害者側の保険会社が示談交渉を行えない理由は、弁護士法第72条によって定められているからです。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
弁護士法第72条では、「弁護士以外が、報酬を得る目的で他人の法律事務(この場合は示談交渉)を扱う業務を行ってはいけない」という内容を述べています。
被害者は、加害者側の保険会社と示談交渉を行い、慰謝料を受け取ることができます。この示談交渉を被害者側の保険会社が行うと、「慰謝料を得る」という報酬目的になってしまうため、弁護士法第72条に反してしまいます。
保険会社が示談交渉を行えるのは、「自分の保険会社が相手に対して保険金を支払う場合のみ」とされています。
追突事故で最も多い怪我とは
追突事故にあった被害者が負う怪我として、最も多いといわれているのが「むちうち」です。
むちうちは、交通事故による衝撃で首に不自然な力が加わり、筋肉や靭帯が損傷することで起こる怪我の総称です。首に力が加わる際に、首が鞭(ムチ)のようにしなることから「むちうち」と呼ばれています。
むちうちの治療先について、詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください。
追突事故における示談金の相場は?
追突事故の被害者は、最終的に加害者側の保険会社と示談を行い、示談金を受け取ることができます。
示談金に相場があるのならば、相場以下の金額で示談を成立させることは避けたいですよね。
そもそも示談金って何?
「そもそも示談金ってどういうお金?」「いつ受け取ることができるの?」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。
示談金とは、交通事故によって被害者が負った様々な損害を、加害者が補うために支払う損害賠償金のことをいいます。示談金の金額は、被害者と加害者側の保険会社が話し合いを行い、お互いが納得した上で決定されます。
被害者が示談金を受け取ることができるのは、加害者側の保険会社と示談が成立してから、約2~3週間後になります。
示談金には相場がない!
示談金には、相場というものがありません。なぜなら、被害者と加害者側の保険会社がお互い納得しているのならば、どのような金額になってもよいからです。ただし、示談金の中に含まれている「慰謝料」には相場があります。
あまりにも低い金額で示談成立となることを避けるためには、慰謝料の相場を把握しておくとよいでしょう。
示談金には何が含まれているの?
示談金には、以下3つのものが含まれています。
- 積極損害
- 消極損害
- 慰謝料
積極損害
積極損害とは、交通事故によって出費を余儀なくされた場合に発生する損害です。
積極損害に含まれているものは、以下の通りです。
- 治療費、入院費用
- 付添看護費
- 入院雑費
- 通院交通費
- 付添看護費
- 装具・器具等の購入費
消極損害
消極損害とは、本来得られるはずであった利益や収入が、交通事故が原因で減少してしまった場合に、発生する損害です。
交通事故によって仕事を休まなければいけなくなり、収入が減少した場合の減収分を補う休業損害と、後遺障害になってしまったことによって、労働能力が減少した場合の減収分をあらわす逸失利益の2つが含まれています。
慰謝料
交通事故で怪我を負うと、被害者は怪我の痛みに耐えなければいけなかったり、時間を割いて医療機関へ通院しなければいけません。
慰謝料は、交通事故の怪我によって被害者が感じた様々な精神的苦痛を、加害者がお金で補ったものです。
被害者が受け取れる慰謝料の種類
被害者が加害者に対して請求できる慰謝料の種類は、2つ。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
一つひとつの内容を、詳しく見ていきましょう。
入通院慰謝料
追突事故で怪我を負うと、被害者は怪我の治療のために医療機関へ通院する手間が増えます。入通院慰謝料は、交通事故の怪我によって入通院を強いられた際に、被害者が感じた精神的苦痛を加害者がお金で補ったものです。
後遺障害慰謝料
追突事故による怪我の治療を続けても、症状が良くならなかった場合、その怪我は後遺障害になってしまうことがあります。後遺障害は、今後生きていく上で一生付き合っていかなければいかないものです。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害になってしまったことで被害者が受けた様々な精神的苦痛を、加害者がお金で補ったものです。
慰謝料が支払われるのは人身事故のみ!
交通事故には、人身事故と物損事故があります。
人身事故
交通事故によって人が怪我を負ったり、死亡する事故。
物損事故
交通事故によって車やガードレールなどの公共物が破損する事故。人は怪我をしていない。
被害者が慰謝料を請求できるのは、人身事故で処理をした場合のみです。物損事故で処理をした場合、加害者が支払うお金は自動車や公共物の修理代のみとなり、被害者への慰謝料は支払われません。
軽い追突事故の場合、事故直後は体に痛みがあらわれないこともあるため、物損事故で処理をしてしまいがちです。しかし、追突事故でありがちなむちうちになった場合、時間が経過してから痛みがあらわれることもあります。後日痛みがあらわれてから医療機関へ行っても、物損事故で処理をした場合は被害者に対して治療費や通院交通費、慰謝料が支払われることはありません。
「追突事故直後は気が動転していて物損事故で処理をしてしまった」「追突事故直後に痛みがないため物損事故で処理をしたけれど、後から痛みが出てきた」という場合は、人身事故への切り替えを行いましょう。
人身事故へ切り替えを行うには、診断書を警察署へ提出する必要があります。
診断書は、医師のいる整形外科や病院で取得することができます。診断書の提出に法的な期限はありませんが、追突事故発生後10日以内を目安に、警察署へ提出するとよいでしょう。なぜなら、追突事故から時間が経過しすぎてしまうと、「事故と怪我との因果関係が認められない」という理由で、人身事故への切り替えを行ってくれない警察署もあるためです。
慰謝料の計算方法には3つの基準がある
慰謝料は、3つの基準を使って計算されます。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
それぞれの基準で計算方法が異なり、また被害者に支払われる慰謝料の金額も異なります。
一つひとつ詳しく見ていきましょう。
自賠責基準
自賠責保険とは、自動車を所有する全ての運転者に、加入が義務付けられている強制保険です。適用範囲は、人身事故のみとなります。自賠責保険が適用されると、通院1日につき4,200円の慰謝料が発生し、限度額は120万円です。
自賠責保険は、交通事故の被害者が受けた損害の補償を、最低限行うことを目的としています。そのため、自賠責基準での被害者に支払われる慰謝料の金額は、3つの基準の中で最も低い金額となっています。
任意保険基準
任意保険とは、運転者の任意で加入を決めることができる保険です。自賠責保険の限度額を超えた場合、不足分は任意保険によって補われます。
任意保険基準は各任意保険会社によって異なり、ほとんど公表されていません。被害者に支払われる慰謝料の金額は、自賠責基準より高額で、弁護士基準よりは低額になるといわれています。
弁護士基準
弁護士基準は、交通事故における過去の判例を基に計算されています。弁護士基準での慰謝料は、日弁連交通事故センター東京支部から発行されている「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」に記載されています。
弁護士基準での被害者に支払われる慰謝料の金額は、3つの基準の中で最も高額になるといわれています。
自分でできる!入通院慰謝料の計算方法
今回は、自賠責基準を使った入通院慰謝料の計算方法をご紹介します。
入通院慰謝料の計算を行うには、まず、
① 治療期間 = 入院期間 + 通院期間
② 実通院日数 = ( 入院期間 + 実通院日数) × 2
①と②の計算を行います。
実通院日数とは、実際に医療機関へ通院した日数のことをあらわしています。
次に、①と②の計算結果を比べ、少ない方に4,200円をかけます。
その金額が、自賠責基準での入通院慰謝料となります。
慰謝料の相場は追突事故の規模で変わる
慰謝料の相場は、入院の有無や通院期間によって異なります。
一言で追突事故といいましても、車を何台も巻き込んでしまう大きな追突事故から、衝撃の小さい軽い追突事故まで、さまざまです。
大きな追突事故の場合、入院をしなければいけなくなったり、長期間通院を続けることになるかもしれません。逆に軽い追突事故の場合、入院も必要なく、通院期間も短く済むかもしれません。
入院の有無で慰謝料の相場は変わる
まずは、入院期間の有無による入通院慰謝料の違いを見ていきましょう。
-
例)追突事故でむちうちになり、入院30日、通院期間130日(実通院日数115日)の場合
①治療期間 = 30+130=160
②実通院日数 = (30+115)×2=290
①の方が少ないので、
160×4,200=672,000
よって、被害者に支払われる入通院慰謝料の金額は67万2,000円。
次に、入院期間がない場合の入通院慰謝料を計算してみましょう。
-
例)追突事故でむちうちになり、入院なし、通院期間130日(実通院日数115日)の場合
①治療期間 = 130
②実通院日数 = 115×2=230
①の方が少ないので、
130×4,200=546,000
よって、被害者に支払われる入通院慰謝料の金額は54万6,000円。
このように、入院期間の有無によって、約12万円ほどの違いが発生します。
慰謝料の相場は通院期間も影響する
次に、通院期間による入通院慰謝料の違いを見ていきましょう。
-
例)追突事故でむちうちになり、入院なし、通院期間150日(実通院日数130日)の場合
①治療期間 = 150
②実通院日数 = 150×2=300
①の方が少ないので、
150×4,200=630,000
よって、被害者に支払われる入通院慰謝料の金額は63万円。
次に、上記の例よりも通院期間が短い場合の、入通院慰謝料を計算してみましょう。
-
例)追突事故でむちうちになり、入院なし、通院期間90日(実通院日数65日)の場合
①治療期間 = 90
②実通院日数 = 65×2=130
①の方が少ないので、
90×4,200=378,000
よって、被害者に支払われる入通院慰謝料の金額は37万8,000円。
この例では、通院期間の長さによって、入通院慰謝料の金額に約25万円程の違いが発生します。
怪我の症状が完全に良くなるまでは、治療を怠らず、定期的に通院するようにしましょう。
後遺障害慰謝料は等級によって変わる!
後遺障害には、1級から14級までの等級があり、これを後遺障害等級といいます。1級が最も重い症状となり、14級が最も軽い症状となります。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって金額が異なります。症状が重くなるにつれて、慰謝料の金額も上がっていきます。
自賠責基準の後遺障害慰謝料相場
追突事故で負う怪我として最も多いむちうちが後遺障害になった場合、後遺障害等級は14級になることがほとんどです。
後遺障害等級14級の場合、被害者に支払われる後遺障害慰謝料は32万円となります。
後遺障害等級別の後遺障害慰謝料については、以下の表をご覧ください。
慰謝料を増額する方法
追突事故で怪我を負い、慰謝料を請求できるのならば、できるだけ高額な慰謝料を受け取りたいというのが被害者の本音ではないでしょうか。
慰謝料を増額させるには、弁護士に示談交渉を依頼するとよいでしょう。弁護士に示談交渉を依頼することで、弁護士基準での慰謝料を獲得できる場合があります。ただし、弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士費用がかかります。弁護士特約を利用できる場合は、て弁護士費用をまかなうことができますが、弁護士特約がない場合は被害者の自腹です。
追突事故で被害者が受け取れる慰謝料についてまとめ
追突事故の被害者は、加害者に対して慰謝料を請求することができます。慰謝料を増額する方法として、弁護士に示談交渉を依頼する方法があります。弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士費用がかかります。弁護士特約を利用できない場合は、弁護士費用が増額分を上回ってしまうこともありますので、注意しましょう。