交通事故で労災を使ったら休業補償?休業損害との違いは?

2019年02月04日

交通事故が原因で仕事を休んだ場合、休業期間の減収分は「休業損害」「休業補償」によって補われます。「休業損害」「休業補償」の違いについて、疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。今回は、休業損害と休業補償の違いや計算方法などについて解説していきます。

「休業損害」と「休業補償」の違い

休業損害と休業補償ともに、「交通事故の怪我によって仕事を休まなければいけなくなり、本来得られるはずであった収入が減少した場合の、減収分を補うもの」ということに違いはありません。

意味に違いはないのに、休業損害と休業補償に分けられるのは何故なのでしょうか。

それは、休業損害と休業補償の請求先である「保険」に違いがあるからです。
自賠責保険が支払うのは「休業損害」労災保険が支払うのは「休業補償」となります。

しかし、「損害」という言葉よりも「補償」の方が、聞こえが良いと言われているため、あまり区別することなく使われているのが現実です。

自賠責保険における「休業損害」について

自賠責保険とは、自動車を所有する全ての運転者に、加入が義務付けられている強制保険です。自賠責保険では、交通事故によって被害者が受けた損害の、最低限を保障することを目的としています。

交通事故によって被害者が受ける損害は、大きく2つに分けられています。

  • 精神的損害
  • 財産的損害

精神的損害は、交通事故によって被害者が受けた精神的苦痛のことをいいます。精神的苦痛は、加害者が被害者に対して慰謝料を支払うことで補われます。

財産的損害は、さらに2つに分けることができます。

  • 積極損害
  • 消極損害

積極損害は、交通事故によって出費を余儀なくされた場合に発生する損害です。主に治療費や通院交通費、付添看護費などが補われます。

消極損害は、本来得られるはずであった収入や利益が、交通事故によって失われた場合に発生する損害です。この消極損害の中に含まれているのが、休業損害なのです。

労災保険における「休業補償」について

労災保険とは、通勤中または業務中に交通事故や災害にあい、傷病を負った労働者の補償を行う制度です。労災保険は、業務災害通勤災害が原因で、交通事故が起こった場合に適用されます。

▶︎参考:業務災害と通勤災害について、詳しく知りたい方はこちら!

休業補償の支払いを受けるには、以下3つの要件を満たす必要があります。

  • ①業務上の事由または通勤による負傷や疾病の療養のため
  • ②労働することができない状態だった
  • ③賃金を受けていない

以上の条件を満たすと、休業4日目から、休業(補償)給付休業特別支給金の支給を受けることができます。

休業1日目から3日目までの休業補償は、業務災害の場合に限って、事業主が支払いを行います。

第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。

労働基準法 – e-Gov法令検索

休業損害と休業補償の計算方法とは?

休業損害と休業補償の計算方法は、それぞれ異なります。
通勤中または業務中に、交通事故の被害にあった場合、自賠責保険と労災保険のどちらを使うかは、被害者が選択できます。それぞれの計算方法を把握しておき、保険を選択する際の判断基準として使用してもよいでしょう。

休業損害の計算方法

休業損害では、1日の基礎収入額を5,700円として計算されます。

自賠責保険で休業損害の計算を行う際は、以下の計算式が使われます。

  • 休業損害 = 5,700円 × 休業日数

しかし、1日の基礎収入額が5,700円を超えることを、源泉徴収票や確定申告書などの資料で証明できれば、その金額を1日の基礎収入額として計算することができます。ただし1万9,000円が限度額、となっています。

休業補償の計算方法

休業補償の計算を行うには、まず交通事故にあう3ヶ月前の平均給与を日割りし、その金額を給付基礎日額とします。

前述しましたが、休業補償には休業(補償)給付」「と「休業特別支給金」があります。

休業(補償)給付では、給付基礎日額の60%に、休業日数をかけた金額が支払われます。
計算式にあらわすと、以下のようになります。

  • 休業(補償)給付 = 給付基礎日額の60% × 休業日数

休業特別支給金では、給付基礎日額の20%に、休業日数をかけた金額が支払われます。

  • 休業特別支給金 =/ 給付基礎日額の20% × 休業日数

まとめると、被害者が受け取れる休業補償は、給付基礎日額の80%に休業日数をかけた金額になります。

休業損害と休業補償の請求方法とは?

休業損害と休業補償では、それぞれで請求方法が全く異なります。
ここでは、休業損害と休業補償の請求方法について、詳しく解説していきます。

休業損害の請求方法

休業損害の請求方法は、以下の通りです。

  • ①休業損害証明書を加害者側の保険会社から送ってもらう。
  • ②勤務先に休業損害証明書を記入してもらう。
  • ③休業損害証明書を加害者側の保険会社へ提出。

休業損害証明書とは、給与所得者が交通事故により仕事を休んだことによって発生した損害を、証明するための書面です。通常、加害者側の保険会社から送られてくるため、被害者自身で用意する必要はありません。

休業損害証明書には、前年分の源泉徴収票を添付する欄があります。もしも源泉徴収票がない場合は、交通事故発生時から3ヶ月分の給与明細で代用することができます。

勤務先に休業損害証明書を記入してもらったら、加害者側の保険会社へ提出しましょう。
加害者側の保険会社が内容を確認後、問題がなければ振り込み続きが行われます。

休業補償の請求方法

休業補償の請求方法は、以下の通りです。

  • ①事業主(会社)に休業補償の支払いを受けたいと伝える。
  • ②事業主が被害者に請求書を送付、医療機関から請求書に証明が行われる。
  • ③被害者が労働基準監督署に請求書を送付

休業補償の請求に必要な書類は、厚生労働省のホームページをご覧ください。
また、休業特別支給金の請求は、休業(補償)給付を請求すると同時に行います。

休業損害と休業補償、同時に受け取ることは可能?

休業損害と休業補償では、計算方法や請求方法が異なることから、「どちらも同時に受け取れたりする?」という疑問が浮かぶ方もいるのではないでしょうか。

しかし、休業損害と休業補償を同時に受け取ることはできません。
なぜなら、自賠責保険は国土交通省労災保険は厚生労働省と管轄は異なりますが、どちらも国が運営しているからです。

労災の休業補償についてのまとめ

通勤中または業務中に交通事故にあい、仕事を休まなければいけなくなった場合、休業期間の減収分は休業損害または休業補償によって補われます。休業損害の請求は自賠責保険、休業補償の請求は労災保険に行います。一般的に、自賠責保険の使用が優先されますが、どちらの保険を使用するかは、被害者が選択することができます。