交通事故で首に違和感。むちうちの通院先と損害賠償・後遺障害まとめ

2019年02月01日

首に違和感を覚えたら?

助手席に座り、ナビに目的地の住所を打ち込んでいると、がこん、とすごい衝撃がした。
このあたりは道が狭い上に、路上駐車が多い。後ろに停車していた車が、道路に出ようとハンドルを右に切ったのだが、誤ってアクセルを踏んでしまったようだ。幸い怪我人はおらず、車もかすり傷程度で済んだ。警察を呼び、物損事故の処理をしてもらった後、次の目的地へと急いだ。

深夜帰宅すると、首がどうも重苦しい。「この違和感は、もしかして……?」

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交通事故には、首都高速や東名高速道路で起きる大きな事故もありますが、停車中に追突される軽微な事故もあります。自分たちの車が100%停車している状態で追突される事故は、加害者側の不注意であることが多く、その過失割合は「10:0」となる場合がほとんど。事故発生時や現場検証の時はそんなことなかったのに、自宅に帰ってから首や肩に違和感を覚える、頭痛や腰痛など痛みを感じる、吐き気をもよおすなどの症状が現れることがあります。その様々な症状、「むちうち症」かもしれません。

今回の記事は、初めて交通事故にあってしまい首に痛みを感じている方、物損事故のままの処理で治療を続けようと思っている方に向けて、交通事故によって起きる怪我やその通院先についてお話しします。

・交通事故後に被害者がするべきこと
・首の痛み(違和感)の原因は?
・むちうち症になった時の診断は?
・自分でできるマッサージ方法はある?
・この痛みが取れなかったらどうすればいい?
・示談交渉ってどうするの?

など、詳しく、そして簡単に書いて行きます。

むちうち症とは?

むちうち症とは、交通事故やスポーツなどで体に外力を受けた時に起こる怪我のことをいいます。交通事故においては首の捻挫であることが多く、交通事故に巻き込まれた人の7〜8割がなるといわれています。正式には「頚椎捻挫(けいついねんざ)」「頚部挫傷(けいぶざしょう」などと呼ばれていて、頚椎(首の軟部組織)がムチを打った時のようにしなることから「むちうち症」と呼ばれています。

むちうち症の種類5つ

交通事故にあって、「確かに首に違和感があるけれど、自分の症状がむちうちなのか分からない」とお悩みの方も多いはず。前述のとおり、むちうち症には様々な種類があります。主な症状は以下5つに分類されます。

  • 1.頚椎捻挫型
  • 2.根症状型
  • 3.バレー・ルー症状型
  • 4.脊髄症状型
  • 5.脳脊髄液減少症型

「1.頚椎捻挫型」がもっとも軽度で、多くの人がなり得るむちうち症です。
番号が増えていくごとに、症状も重くなります。それぞれの症状について、詳しく見て行きましょう。

1.頚椎捻挫型

首の急性外傷で頚椎の周りの軟部組織(筋肉や靭帯といった、レントゲンには映らない組織)が損傷したもの。首回りの筋肉や靭帯が急激に伸ばされたか断裂(※1)した状態で、首の捻挫によって炎症を起こしている。
首を伸ばすと痛みが強くなる。
(※1)断裂…切れて避けること。

    主な症状…首の痛み、肩の痛み、首・背中・肩のコリ、頭痛、めまい、吐き気

2.根症状型

頚椎は7つの椎骨という骨でできているが、この椎骨が歪むと、その中を通る神経が通る道が狭くなり、神経を圧迫する。それぞれの神経根はその支配する領域が決まっていて、症状がきている部位によって、どこに原因があるのかを大まかに推測できる。

    主な症状…腕の痛みやしびれ、だるさ、後頭部の痛み、顔面痛。知覚障害や反射異常、筋力低下などが伴うこともある。

3.バレー・ルー症状型(後部交感神経症候群)

頚椎に沿って走っている後部交感神経が損傷したことにより、脳や脊髄への血流が低下し、自律神経のバランスが崩れる。その症状の多くは、肩こりやめまいといった不定愁訴(※2)であることが多い。
(※2)不定愁訴…原因が明らかでない体の不調のこと。

    主な症状…頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、顔半分の鈍痛、目の疲れ、視力の低下など。喉の異常感、かすれ声、心臓の痛み・苦しさ、倦怠感、集中力の低下

4.脊髄症状型

脊髄が傷つき、下肢(下半身)に伸びている神経が傷ついたことによって起きる。足のしびれや知覚異常が起こる。むちうちの中でもかなり重度な怪我で、脊髄損傷のこと。

    主な症状…下肢のしびれ、知覚異常、歩行障害、膀胱直腸障害(尿や便が出にくくなる)

5.脳脊髄液減少症型(低髄液圧症候群)

外的衝撃によって、脳や脊髄を衝撃から守る脳脊髄液が漏れて減少することで、様々な症状が起きる。

    主な症状…慢性的な頭痛、首の痛み、まめい、耳鳴り、聴覚障害、ふらつき、吐き気、視力障害など。倦怠感や顔面痛など、不定愁訴が多く現れる。

脳髄液減少症は、ブラッドパッチという治療方法が用いられることが多く、脳のMRIで画像検査が可能です。しかし、交通事故との因果関係は立証されにくいとされています。

交通事故でむちうち以外にも考えられる怪我は?

交通事故による怪我は、何もむちうち症だけではありません。
骨折や打撲、擦り傷などの外傷も。骨折と脱臼の違いは、骨折の場合は「骨」の損傷、脱臼の場合は「関節」の損傷です(編集部調べ)。
交通事故の直後は、脳内が興奮状態にあるために、自分の怪我に気がつかない場合があります。物損事故で処理をされたとしても、一度受診し、怪我をしているかどうかを検査することが大切です。

むちうちの通院先と治療・施術方法

首に違和感を覚えたら、まずは整形外科や総合病院などの医療機関で診断を受けましょう。
それによって「頚椎捻挫」等の診断を受けた場合、以下の3つが通院先の選択肢として挙げられます。

頚椎捻挫の通院先3つ

それぞれ所有資格や治療・施術の内容が異なりますので、自分の症状にあった通院先を選択してくださいね。

1.整形外科・総合病院

医師免許。レントゲンやMRIなどの検査、投薬や湿布の処方をしてくれます。
後述もしますが、交通事故の示談交渉において必要となる「診断書」は医師しか発行できません。

2.整骨院(接骨院)

柔道整復師という国家資格所有者が施術をしてくれます。病院で診断を受けた後に、手技療法や固定法を用いて痛みを緩和します。交通事故においては、加害者側の保険会社に施術費を請求することが可能です。

3.鍼灸院

はり師、灸師といった、それぞれ国家資格所有者が施術します。自律神経の乱れといった不定愁訴を鍼や灸で緩和するよう務めます。

首の痛みは自分でマッサージできないの?
「仕事が忙しくて病院の時間に間に合わない」「家事や育児に追われて通院できない」となった時、自分でマッサージやストレッチする方法を知りたいと思いますよね。

残念ですが、自分でマッサージやストレッチをしてはいけません。
特に交通事故の直後〜1週間、痛みを感じる時期は、炎症しているといわれています。炎症をしているときに、マッサージをして余計な負荷をかけてしまうと、怪我が悪化する恐れも。

お仕事が休めなくても、家事で忙しくても、まずは治療・施術のプロにみてもらうことをおすすめしています。
また、もし人身事故扱いで処理をしたとしても、自分でどうにかできるくらいなら、加害者側の保険会社に治療費を打ち切られることがあります。仕事も家事ももちろん大切ですが、体の健康はそれ以上に大切です。あなたが元気でなければ、それらはできないことなのですから。

交通事故の示談交渉

病院に診断してもらい、何かしら怪我をしていた場合、その治療費や通院交通費は加害者側の保険会社に請求することができます。加害者は被害者の受けた損害を賠償する(つぐなう)ことが決められているからです。交通事故の加害者と被害者とが譲歩し、話し合いで和解することを示談といいます。交通事故発生から、示談成立までの流れは以下の通りです。

  • 1.交通事故の後、警察を呼び現場検証(加害者と連絡先を交換する)
  • 2.整形外科や総合病院で診断を受ける
  • 3.怪我をしていたら、事故現場を管轄している警察署へいき、人身事故に切り替える。
  • 4.加害者側の保険会社に連絡をする
  • 5.完治/症状固定
  • 6.保険会社から和解案の提示(示談交渉)
  • 7.書類提出(証拠の定時)
  • 8.示談成立/示談不成立(交通事故紛争処理センター)

物損事故から人身事故に切り替える手続き方法

物損事故の場合では、死傷者が出ていないことから、治療費や慰謝料を保険会社に請求することはできません。もし交通事故によって怪我をしていたら、怪我を治すためにしっかりと通院し、その治療費や通院のための交通費を加害者側の保険会社に請求します。そのためには、物損事故から人身事故に切り替えるための手続きを被害者自ら行わなければなりません。詳しくは下記の参考をお読みください。

▶︎参考:診断書の取得はいくらかかる?物損事故から人身事故に切り替える手続きのまとめ

保険会社に支払われる損害賠償3つ

加害者は、交通事故によって与えられた被害者の損害に対して、誠意を持って償わなければなりません。被害者が怪我をしたのであれば通院交通費や治療・施術代、会社を休んだのであれば減収された給与分、怪我によって感じる痛みや精神的苦痛のすべて。これらを金銭的に表し、つぐなうことを「損害賠償」といいます。
損害賠償は、主に3つに分けられます。

  • 1.積極損害
  • 2.消極損害
  • 3.慰謝料

順番に見て行きましょう。

①積極損害

積極損害とは、治療費や通院交通費、付添看護費、文書費(診断書を取得するための金額)など、直接的にかかったお金のこと。入院が必要な怪我であれば、雑費などもここに含まれます。

②消極損害

交通事故にあっていなければ得られていたはずの利益で、休業損害や逸失利益といった直接的に見えないお金のこと。会社を休んで給与が減る・後遺症が残り、これまでのような仕事ができなくなって減収する場合に請求できます。

③慰謝料

交通事故にあい、怪我をして痛みを伴う、通院の煩わしさや手続きの煩雑さなど、被害者のあらゆる精神的苦痛を現金に換算したもの。治療費と慰謝料とを混同されることがありますが、慰謝料はあくまでも被害者の「精神的な負担」をつぐなうものをいいます。

【交通事故の慰謝料】算出基準3つ

慰謝料は、“被害者の精神的苦痛を現金で換算したもの”でしたね。この慰謝料には、算出する基準が3つあります。

  • 1.自賠責保険基準
  •  

  • 2.任意保険基準
  •  

  • 3.弁護士基準

自賠責保険は、国で入らなければ行けない強制保険のことをいいます。この自賠責保険は、国土交通省が昭和30年に「被害者を“最低限”保護」することを目的に作りました。あくまでも“最低限の保護”であるため、算出基準や最高限度額が決められており、死傷者が出ない物損事故の場合には適用されません。傷害慰謝料の場合は120万、後遺障害慰謝料(1級)・死亡慰謝料の場合は3000万円までです。

自賠責保険の慰謝料の基準は決められています。1日あたり、4200円です。
ただし、損害賠償の最高限度額が120万円までで、慰謝料の他に治療費や通院交通費、診断書取得のための文書費などが含まれます。
よって、通院日数分の慰謝料がもらえる訳ではありません。

むちうち症は治らない?治療費打ち切りになる前に知っておくべきこと8つ

▶︎参考:自賠責保険で被害者がもらえる慰謝料はいくら?自賠責保険の慰謝料計算方法はこちら
また、任意保険基準と弁護士基準においては、各社が設けており、契約内容や交通事故の過失割合にもよるため具体的な数字はありません。

保険会社は治療費をいつまで支払ってくれるの?

保険会社が怪我の治療費を支払ってくれる期間は決められています。

完治/症状固定まで

完治は症状が治ること、症状固定は症状が後遺症として残ってしまう場合のことです。通院先の医師が「これ以上治療を続けても症状は緩和されない」と判断します。保険会社は、被害者の怪我が完治(治癒)するか、症状固定とされるまでは治療費を支払います。

ただし、むちうち症の治療期間の目安は、一般的に1〜6ヶ月間とされています。目安の期間が近くと、保険会社から「治療費の打ち切り」を打診されます。また、被害者に「治そう」という誠意が見られない時にも、治療期間を待たずして打ち切りとされることもあります。通院が大変であっても、症状が辛いのであれば、しっかりと通院をしましょう。

▶︎参考:加害者が任意保険に入っていなかったらどうする?「被害者請求」のやり方についてはこちら

損害賠償を請求する方法2つ

被害者は、怪我が治る(あるいは症状固定とされる)まで、しっかりと通院を続けます。治療費や、それにかかった通院交通費、休業損害などすべてを計算し、保険会社から示談金の提示をされます。

請求する方法は以下2つ。
加害者請求と、被害者請求です。

加害者請求と被害者請求の違い

加害者請求とは、加害者側の保険会社が手続きを行ってくれることです。
被害者請求は、被害者自ら後遺障害慰謝料の申請手続きを行うことをいいます。加害者請求の方が手続きはスムーズに進みますが、後遺障害と認定されなかった場合の満足感や納得感が違います。

被害者請求は、加害者が自賠責保険しか入っていない場合などにも有効です。
提出書類を集めたり書類に記入したりと、手続き自体が加害者請求に比べるととても大変になります。しかし、交通事故と怪我との因果関係を立証するための証拠をしっかりと提出できるため、後遺症が残った時には、後遺障害等級認定が比較的認められやすいとされています。

後遺障害等級認定を申請しよう

交通事故の被害者となってしまい、運悪く何かしらの後遺症が残ってしまった。
症状固定と言われ、後遺症が残ってしまったとき、治療費を支払ってもらえないのは被害者としてはかなりの負担です。

以下の流れに沿って後遺障害等級認定を申請します。

  • 1.医師に「後遺障害診断書」を書いてもらう
  • 2.被害者請求/加害者請求
  • 3.損害保険料率算出機構にて審査
  • 4.後遺障害等級認定

後遺障害等級認定のポイント

交通事故の怪我が何かしら後遺症として残ってしまった場合、それら全てに慰謝料が支払われる訳ではありません。「損害保険料率算出機構」が、後遺障害診断書を含む書類を「自賠責調査事務所」へ送り、「後遺障害として認めて、慰謝料を払うべきか否か」を判断します。
それには、以下5つのような条件が考えられます。

損害保険料率算出機構とは?
国土交通省が管轄する団体で、自賠責保険についてのあらゆる業務を遂行する機構。後遺障害認定においては、同機構が全国各地に「自賠責調査事務所」を持っており、書類の精査や事故と後遺症の因果関係の調査などを依頼する。自賠責調査事務所は、後遺障害として認定できるかを以下の条件で判断し、後遺障害の最終的な金額を決めている。

  • ①交通事故と後遺症に関連性はあるか(関連性があるかどうか説明できるか)
  • ②因果関係を立証できる証拠があるか(MRIやレントゲンなど)
  • ③毎月の診断書に一貫性があるかどうか(診断書に毎月違う疾患名が記載されていないか)
  • ④事故発生から症状固定までの間に症状が出たり出なかったりしていないか
  • ⑤後遺障害診断書に不利益な記載がされていないか(※例)今後治る可能性がある

これらの条件を全て満たして、「後遺障害等級認定」がされます。認定された場合は、後遺障害の等級に合わせて「後遺障害慰謝料」が支払われます。
自賠責調査事務所が後遺障害として認められないとなったとき、被害者はその結果に不服がある場合には、「異議申し立て」の手続きを行うことができます。

▶︎参考:後遺障害の詳しい手続きについてはこちら
▶︎参考:後遺障害として認定されなかったら?異議申し立ての方法とコツ

交通事故で首に違和感があったときのまとめ

交通事故で首を痛めてしまった場合には後遺症になることも考えられます。
「こんな忙しい時に…」と自分をうらめしく思ってしまうこともあるかもしれませんが、ほんのわずかな違和感であっても、必ず病院へ行きましょう。お仕事がどれだけ忙しくても帰れなくても、まずはご自身の健康があってこそ。

  • 交通事故の被害に巻き込まれた場合は必ず受診する
  • 交通事故で首を痛めたらむちうち症の可能性を疑う
  • むちうち症は首の痛みだけでなく5つに分類される
  • 交通事故でむちうち症になった場合の通院先は3つある
  • 病院での診断書がなければ人身事故に切り替えられない
  • 治そうとする意思がなければ、治療費の打ち切りにあうこともある
  • 後遺症が残ってしまった時は後遺障害等級認定を申請する

どうかお大事にされてくださいね。