物損事故で病院に行っても慰謝料は出る?

2019年02月04日

物損事故として扱われた場合、病院にかかる費用や慰謝料は請求できるのでしょうか?
物損事故と人身事故では、大きく変わる損害賠償についてご説明します。

▶︎参考:交通事故にあってしまった。警察に伝えるべき情報5つ

物損事故でも病院へ行くべき?

交通事故の直後、かすり傷程度で特に痛みを感じない場合、「わざわざ病院へ行くほどでもないか…」と思ってしまうことがあると思います。また、痛みを感じていたとしても、加害者や警察官から大袈裟だと思われるのが嫌で、病院に行くとは言えず、物損事故のまま処理をする方もいるでしょう。
しかし、たとえ自覚症状がないとしても、交通事故にあった時点で、体に何らかの負荷がかかったことは疑いようのない事実です。

交通事故直後は痛みに鈍感

交通事故後すぐは、危機や不安で脳内が興奮状態にあります。
このとき、体内では痛覚を麻痺させる働きのあるアドレナリンが分泌され、身体の異変に気付きにくくなると言われています。
よって、自覚症状がなかったり、少しの違和感を覚えたりするだけで、体の不可に気がつかない人が多くいます。

物損事故のあとからくる「むちうち症」

むちうち症の正式名称は、頚椎捻挫(けいついねんざ)または外傷性頸部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)といいます。交通事故においては、追突された衝撃などにより頚椎(首の骨の部分)が損傷することによって、首が痛むなどの症状が現れます。

交通事故から数日〜1週間ほど経ち精神的に安定してくると、首の痛みや違和感が症状として現れます。一ヶ月以上も経ってから発症することも珍しくないようです。

疼痛(とうつう)といわれる首の痛みが主な症状ですが、めまいや吐き気、頭痛や耳鳴りなどを引き起こすこともあり、放っておくと、それらの症状が後遺症として残ることも考えられるといわれています。

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▶︎参考:交通事故による怪我の状況別の具体例

▶︎参考:もしかしてむちうち?自分でできるむちうちのセルフチェック!

物損事故と人身事故の違いは?

交通事故は、「人身事故」と「物損事故」に分類されています。その違いは「人が死傷したか、していないか」という一点です。

  • 物損事故…怪我人がおらず、物が壊れてしまう交通事故
  • 人身事故…人が怪我をしてしまう交通事故

物損事故は、単独でガードレールや電柱、道路標識や民家の塀などに接触したり衝突したりして器物破損してしまう事故や、車同士の衝突事故でも怪我人がいない場合をいいます。交通事故の状況や規模にかかわらず、警察官に「怪我人がいない」と判断された場合は、すべて物損事故として扱われます。

物損事故は刑罰なし

人身事故の場合、人を怪我させてしまった加害者に対して、運転免許の失効や取り消し、業務上過失致死傷害罪などの刑罰が科せられます。

しかし、物損事故では、刑事処分や行政処分がありません。
補足ですが、器物破損罪が適用されることもありません。これは、「故意に物を壊した場合」に問われる罪であることから、交通事故では適用されません。

自賠責保険は効力なし

自賠責保険とは、車を運転する誰もが絶対に入らなければならない強制保険のことをいいます。この自賠責保険は、物損事故の場合には保証されません。

過失割合で賠償額が変動

人身事故では加害者に賠償義務があります。しかし、物損事故の場合は損害の大小にかかわらず、双方に過失があると、その過失割合に応じて、互いの損害を負担しなければなりません。
例えば、車同士の事故で、自分の被害額が60万円、相手側が40万円だった場合、その差額となる20万円を請求できるわけではありません。

立証責任

物損事故では、双方の過失割合に応じて賠償請求可能額が変動します。この過失割合を争う際、相手側の過失を自分で立証しなければなりません。
しかし、物損事故では、人身事故のように「実況見分調書」は作成されず、「物件事故報告書」という簡易な書類のみとなります。これは、実況見分調書のように事故状況の詳細が記録されないため、事故状況の証明には不十分であるうえ、入手も容易ではありません。

物損事故の損害賠償について

物損事故の場合、どのような損害賠償があるのでしょうか。また、人身事故の場合との違いはどの程度あるのでしょうか。

賠償責任は損壊物のみ

物損事故の賠償賠償は、壊れたものに対してしか支払われません。

例えば、被害物が車の場合、元通りに修理できる、もしくは、買い替えることができるため、物に対する被害は「元通りに回復する」という考え方です。一方、人身事故の場合、「人間の身体を事故前とまったく変わらない状態に治癒することは不可能であり、治療の過程に伴う精神的苦痛も相当なものである」と判断されます。
つまり、物損事故においては「物の賠償が済めば、他に賠償すべきほどの精神的損害を認めることはできない」ということなのです。

▶︎参考:物損事故のままで大丈夫?実際にあった交通事故被害者の体験談

▶︎参考:人身事故の場合の損害賠償は何がある?

▶︎参考:被害者が損害賠償を受け取れるタイミングはいつ?

後遺症が残った場合

物損事故のままの処理で、後遺症になったとしても、人身事故のときのような後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取ることができません。

物損事故では、被害物の賠償のみである以上、後遺症が後遺障害に該当した場合も同様、損害賠償請求は認められません。物損事故とはいえ、精神的苦痛を伴っているはずですが、「財産上の損害が賠償されることで精神的苦痛も慰謝される」というのが理由です。

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物損事故と人身事故の損害賠償の比較

以上のことを踏まえて、物損事故と人身事故の損害賠償を比較してみると、以下の通りです。

  • 物損事故の損害賠償:壊れたものに対してしか補償されない
  • 人身事故の損害賠償:治療費、入通院慰謝料、通院交通費、休業損害、後遺障害慰謝料など様々なものを補償してくれる

交通事故による怪我は、数日後に痛みがあらわれることもあります。そのため物損事故のままで処理されている場合、人身事故へ切り替えなければ、十分な補償が受けられなくなってしまいます。人身事故へ切り替える手順については、次で説明します。

物損事故から人身事故に切り替えるには?

「事故当時は特に症状がなかったため、病院へは行かず物損事故として処理した。しかし数日経ってから、むち打ちなどの事故が原因と思われる身体の不調があらわれた」という場合は、警察へ申請することで人身事故へ切り替えることが可能です。では、どのような手順で切り替えるのでしょうか。

切り替えの手順

①医療機関へ通院する
②診断書を発行してもらう
③診断書を持ち、警察へいく

この手続きには、医師の診断書が必須です。
事故との因果関係が証明できないと、物損事故から人身事故への切り替えができないからです。申請が受け付けられない可能性がありますので、医師には人身事故への切り替えを届け出る予定である旨を伝え、因果関係の有無を明確にしてもらい、怪我の症状を証明できる診断書を発行してもらいます。

なお、切り替え申請の期間に特別な決まりはありませんが、事故からあまりに時間が経ってしまうと、「この症状は交通事故が原因というわけではない」と思われてしまいます。
切り替えのタイミングは、1週間~10日前後が目安となります。

物損事故から人身事故へ切り替えるには?

▶︎参考:人身事故に切り替え終わったら、どんな通院方法がある?

物損事故の慰謝料に関するまとめ

いかがでしたでしょうか。
物損事故として扱われた場合、損害賠償を請求できるのは被害物の修理費用もしくは買い替え費用だけになります。
痛みが遅れて出てくることも考えられますので、物損事故の場合でも、医療機関で診断を受け、記録を残しておくことをおすすめします。

    物損事故は、壊れたものしか補償されない
    物損事故の場合、壊れたものにしか補償を得られません。したがって、実際に治療を要した場合や慰謝料、その費用を請求することはできません。損害賠償請求が可能なのは、被害物の修理費あるいは弁償費用のみであることから、後遺障害が残ってしまった場合でさえ、損害賠償請求は認められません。

    立証が困難
    被害物についての賠償請求可能額は過失割合によって変動するため、事故状況を自力で証明しなければなりません。しかし、物損事故では「実況見分調書」を作成してもらえないため、過失割合を争う際に事故状況の証明が困難になります。

    人身事故への切り替え申請
    事故当時は物損事故として扱われても、後日、事故を原因とする身体の不調があらわれたら、人身事故への切り替え申請が可能ですので、警察へ申請してください。その際、診断書が必要になります。また、期間としては、1週間から10日前後が目安となります。
    本当に物損事故で済んだのか、主観的に判断し、目には見えなくても身体に不調がある場合や、大ケガではないにせよ外傷がある場合は、人身事故として届け出ることが肝要です。

この記事を読んだあなたが少しでも楽になりますように。