交通事故で車が衝突する際、体に大きな衝撃を受けます。そのため、椎間板ヘルニアになってしまう可能性もあります。
そこで今回は、交通事故で発症する恐れのあるヘルニアについて解説していきます。
もくじ
交通事故後にあらわれた痛みはヘルニア?
交通事故後、肩こりや背中に痛みがあらわれている場合、ヘルニアである可能性も考えられます。ヘルニアとは、臓器や組織の一部が本来あるべき場所ではないところに飛び出した状態を指します。
交通事故で発症するヘルニアは、主に以下2つです。
- 頚椎椎間板ヘルニア
- 腰椎椎間板ヘルニア
上記のようなヘルニアは、交通事故で強い衝撃を受けてしまい、椎間板(※1)が椎骨の外に飛び出すことで発症するものです。ただし、頚椎椎間板ヘルニアと腰椎椎間板ヘルニアとでは、あらわれる症状が異なります。
※1 椎間板とは、椎骨と椎骨の間にあるゲル状の組織のことで、衝撃を和らげるクッションのような役割を担っています。
頚椎椎間板ヘルニア
頚椎椎間板ヘルニアとは、首にある椎間板が椎骨から飛び出し、首周辺の神経が圧迫された状態です。そのため、症状が上半身にあらわれることが多く、首や背中の痛みや肩こり、腕のだるさ、しびれなどの症状があらわれます。
ただし、症状が悪化してしまうと、足のしびれや痛み、膀胱障害など、下半身にも症状があらわれるため、注意が必要です。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアとは、腰周辺にある椎間板が椎骨から飛び出し、下半身の神経が圧迫された状態です。また、腰椎と呼ばれる5つの椎骨のうち、主に4番目と5番目、仙骨の間で起こりやすいといわれています。
腰椎椎間板ヘルニアの主な症状は、腰痛です。また、椎間板が飛び出した影響により、神経が圧迫されると、下半身を中心に、以下のような症状があらわれます。
- 足やお尻辺りの痛み・しびれ
- 運動障害
- 筋力低下 など
【疑問】ヘルニアと坐骨神経痛は違うもの?
坐骨神経痛とは、坐骨神経という神経が通っているお尻、太ももの後ろ側にあらわれる痛みのことです。つまり、坐骨神経痛は病名ではなく、お尻から太ももの後ろ側が痛くなる症状を指しています。そのため、椎間板ヘルニアでも、お尻から太ももの後ろ側に痛みがあれば、坐骨神経痛といえるのです。
このことから、椎間板ヘルニアと坐骨神経痛は、「病名」と「症状名」という点で異なります。しかし、椎間板ヘルニアで坐骨神経痛があらわれることもあるため、近しい存在であるといえるでしょう。
交通事故によるヘルニアの治療
交通事故で椎間板ヘルニアになってしまった場合、以下のような2つの方法で治療が行われます。
- 保存療法
- 手術
保存療法
保存療法とは、出血させない方法で行う治療のことで、椎間板ヘルニアの症状が軽い場合に行われます。具体的な治療方法としては、以下の通りです。
- ネックカラー、コルセットなどの装具を使用する
- 湿布や痛み止めを服用する
- 神経ブロック注射(※2) など
上記のような治療を行いながら、安静を保ちます。
※2 神経ブロック注射とは、痛みのあらわれている部位の神経付近に、麻酔薬を注射する治療方法です。神経ブロック注射を行うことで、痛みの緩和や血行促進、興奮した神経を落ち着かせるなどの効果が得られます。
手術
椎間板ヘルニアでしびれや運動麻痺などの重い症状があらわれている場合は、手術が行われます。ただし、頚椎椎間板ヘルニアと腰椎椎間板ヘルニアで行われる手術は異なります。
頚椎椎間板ヘルニア
頚椎椎間板ヘルニアで行われる手術は、ヘルニアが2ヶ所以下であれば「前方除圧固定法」、ヘルニアが3ヶ所以上ある場合は「後方除圧」が行われます。
- 前方除圧固定法:首の前方からヘルニアの原因となっている椎間板を取り除く手術
- 後方除圧:首の後方からヘルニアの原因となっている椎間板を取り除く手術
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアで行われる手術は、ヘルニアの原因となる椎間板を取り除く、椎間板切除術が行われます。ただし、椎間板切除術の方法は、内視鏡を使用する場合と、しない場合によって異なります。
内視鏡を使用する場合 | 内視鏡を使用しない場合 |
---|---|
高度な技術が必要 手術痕が小さい 入院期間が短い |
一般的な手術方法 術痕が大きい 入院期間が長くなる |
交通事故のヘルニアは後遺症が残る可能性も…
交通事故によって椎間板ヘルニアになってしまうと、しびれや麻痺などの後遺症が残る可能性もあります。もしも交通事故が原因で椎間板ヘルニアの後遺症が残った場合は、後遺障害等級認定を申請することをおすすめします。
後遺障害等級認定とは
後遺障害等級認定とは、交通事故で残ってしまった後遺症が後遺障害の等級に該当するかを判断し、等級の認定を行うものです。後遺障害等級認定を申請し、等級が認定された場合は、等級に応じた後遺障害慰謝料(※3)や逸失利益(※4)を受け取ることができます。
※3 交通事故による怪我が後遺障害になったために、被害者が負った精神的苦痛の対価として加害者が支払うもの。
※4 交通事故の後遺障害が原因で被害者の労働能力が低下し、得られなくなってしまった将来の利益を補填するもの。
後遺障害の等級は1~14級まであり、椎間板ヘルニアの場合、12級13号または14級9号に該当する可能性があります。
- 12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
- 14級9号:局部に神経症状を残すもの
ヘルニアの後遺障害等級認定はMRI検査を!
椎間板ヘルニアで後遺障害等級認定を受ける場合は、MRI検査を受ける必要があります。なぜならば、後遺障害等級認定で等級が認定されるには、以下5つの条件を満たしていなければなりません。
- 症状を医学的に証明できること
- 交通事故の状況と症状の程度が一致していること
- 交通事故の直後から医療機関へ定期的に通院し続けていること
- 交通事故にあってから症状が続いており、一貫性があること
- 重い症状であるとともに、日常的に慢性症状があらわれていると認められること
上記にあるように、症状を医学的に証明するには、医療機関で検査を受ける必要があります。椎間板ヘルニアの後遺症を医学的に証明する場合、MRI検査が最も適当な検査です。
MRI検査とは
MRI検査とは、強い磁石とラジオに使われる電波を使い、体内の様子を画像にする検査のことです。特に、脊椎や脳、四肢などに生じる異常を発見するのに特化しています。ただし、MRI検査は、30分の検査時間を要し、ペースメーカーのような金属が体内に入っている方は検査を受けられません。
MRI検査だけでなく神経学的検査も受けてみる
MRI検査が受けられない方やMRI検査で異常がみられなかった場合、神経学的検査を受けることをおすすめします。
神経学的検査は、体を動かして神経に異常があらわれていないかを調べる検査です。神経学的検査に様々な症状があらわれます。椎間板ヘルニアの後遺症を調べるために行われる神経学的検査には、以下のような検査があります。
- スパーリングテスト
- ジャクソンテスト
- 筋委縮検査
- 深部腱反射テスト など
交通事故の後遺障害等級認定の手続き方法
椎間板ヘルニアの後遺障害等級認定を申請する手続き方法は、以下の2つから選択することができます。
- 事前認定
- 被害者請求
事前認定
事前認定の場合、加害者側の保険会社が交通事故の被害者に代わって、後遺障害等級認定の申請手続きを行ってくれます。そのため、被害者は、後遺障害等級認定で行う手続きの手間を省くことができます。
ただし、加害者側の保険会社が後遺障害等級認定の手続きを行うため、被害者にとって有利な書類を提出することができません。また、後遺障害等級認定の申請過程を把握することもできないため、納得のいく等級が認定されない可能性が高いです。
被害者請求
被害者請求の場合、被害者自身で後遺障害等級認定の申請手続きを行うことになります。そのため、事前認定と違って被害者自身で必要な書類を取得・作成しなければならず、手続きの手間がかかってしまいます。
しかし、被害者自身で後遺障害等級認定をの申請を進めることで、認定時に被害者自身にとって有利になる書類を作成することが可能です。したがって、後遺障害等級認定において、納得のいく等級が認定される確率が高くなります。
交通事故のヘルニアについてのまとめ
いかがでしたか。交通事故の被害にあい、頚椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間板ヘルニアになることもあります。その場合は、保存療法や手術といった治療を受けるようにしてください。
また、椎間板ヘルニアの症状が緩和されず、後遺症になってしまう可能性もあります。もしも交通事故で後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害等級認定を申請することをおすすめします。後遺障害等級認定の申請を行い、等級が認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取ることができます。