交通事故による怪我は、後遺症になってしまうことがあります。
後遺症になってしまったら、思い通りに動くことができなくなり、日常生活に大きな支障をきたす場合があります。
「後遺症になってしまった…これからどうしよう」「交通事故にあわなかったら、こんなことにならなかったのに…」と、被害者は痛みの苦痛に耐える他、様々な精神的苦痛を負わなければいけません。
後遺症によって被害者が受けた損害は、どのようにして補われるのでしょうか。
今回は、後遺症になった後、被害者が請求することのできる「後遺障害慰謝料」について詳しく解説していきます。
後遺症と後遺障害の違い
交通事故による怪我は、治療を続けて「完治」するパターンと、治療を続けても完治せず「後遺症」または「後遺障害」になるパターンの2つに分かれています。
ここでは、「後遺症」と「後遺障害」の違いについて、詳しく述べていきます。
後遺症とは
交通事故による怪我の治療を続けても、症状が良くならない場合、その怪我は「症状固定」になる場合があります。症状固定とは、「これ以上怪我の治療を続けても、症状が良くなる見込みはない」と医師に判断されることです。
後遺症とは、症状固定と判断された時点で残っている怪我の症状のことをいいます。後遺症になると、今まで支払われてきた治療費や慰謝料は打ち切られてしまいます。
後遺障害とは
前述したように、後遺症になった時点で、治療費や慰謝料の支払いは打ち切られてしまいます。しかし、後遺症が後遺障害と認められ、等級がつくことで、再び慰謝料の支払いを受けることができます。
後遺症が後遺障害と認められるための条件は、5つ。
- 後遺症が交通事故が原因のもので、肉体的・精神的に損害を負っていること。
- 被害者が感じている後遺症と交通事故との因果関係が明確であること。
- 今後生きていく上で、症状が回復する見込みはないと医師に判断されていること。(症状固定)
- 後遺症の原因が、医学的に証明または説明できるものであること。
- 後遺症の症状が、自賠責保険の後遺障害認定基準に該当していること。
上記の条件を満たすと、「後遺症」から「後遺障害」へと変わり、後遺障害等級の認定を受けることができます。後遺障害等級は、1級から14級まであります。1級が最も重い症状となり、14級が最も軽い症状となります。
後遺障害等級が認定されると、等級に応じて後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料とは、後遺障害になってしまったことで被害者が負った精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったものです。請求できる慰謝料の金額は、1級が最も高額となり、14級が最も低額となります。
後遺障害慰謝料には3つの基準がある
後遺障害慰謝料には3つの基準があり、それぞれで支払われる金額が異なります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
まずは、それぞれの基準がどのようなものなのか、見ていきましょう。
自賠責基準
自賠責保険とは、自動車を所有している全ての運転者に、加入が義務付けられている保険です。交通事故の被害者が受けた損害に対して、最低限の補償をすることが目的です。
自賠責基準での後遺障害慰謝料は、3つの基準の中で最も低い金額になります。
任意保険基準
任意保険とは、加害者の任意で加入を決めることができる保険です。
任意保険基準は、各保険会社によって基準が異なることから、ほとんど公表されていません。一般的に、自賠責基準よりは高額で、弁護士基準よりは低額になるといわれています。
弁護士基準
弁護士基準は、交通事故における過去の判例を参考に、弁護士会によって公表されています。日弁連が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)で確認することができます。
弁護士基準での後遺障害慰謝料は、3つの基準の中で最も高額になるといわれています。
後遺障害等級別の後遺障害慰謝料
3つの基準によって後遺障害慰謝料の金額が異なるということは、お分かりいただけたでしょうか。それでは、自賠責基準と弁護士基準では、金額にどれくらいの差があるのか解説していきます。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
1級 | 1100万円 | 2800万円 |
2級 | 958万円 | 2370万円 |
3級 | 829万円 | 1990万円 |
4級 | 712万円 | 1670万円 |
5級 | 599万円 | 1400万円 |
6級 | 498万円 | 1180万円 |
7級 | 409万円 | 1000万円 |
8級 | 324万円 | 830万円 |
9級 | 245万円 | 690万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
11級 | 135万円 | 420万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
このように、自賠責基準と弁護士基準を比べると、約3.5倍ほどの差があります。
弁護士基準で後遺障害慰謝料を請求するには?
詳しい手続きの方法については後述しますが、後遺障害等級認定の申請方法には、加害者請求と被害者請求の2種類があります。
被害者請求では、後遺障害等級認定の申請手続きのすべてを、被害者自身が行います。手続きは複雑なものが多いため、弁護士へ相談しながら行うとよいでしょう。
被害者請求を弁護士に相談することによって、スムーズに手続きを進めることができるようになります。また、後遺障害慰謝料を弁護士基準で請求することも可能になります。
手続きを弁護士に依頼すると、弁護士費用が発生します。弁護士費用が高額になると、想像していたよりも慰謝料が増額できないことがあります。しかし、弁護士特約に加入している場合は、弁護士費用を補ってもらえます。
被害者請求を弁護士に依頼する際は、自身が加入している保険内容を、確認してから行うようにしましょう。
後遺障害等級が認定されるには
後遺障害等級認定を申請し、後遺障害等級が認められると、被害者は等級に応じて後遺障害慰謝料の支払いを受けることができます。
ここでは、後遺障害等級が認定されるまでの流れについて解説していきます。
後遺障害等級認定の申請準備
後遺障害等級認定の申請を行う前に、まずは申請準備をしましょう。
後遺障害等級認定の申請準備で、すべき事は2つ。
- 1.症状固定まで通院を続ける
- 2.後遺障害診断書を取得する
症状固定と判断されないと、「怪我が完治した」と思われてしまい、後遺障害等級が認定されることは極めて困難になります。交通事故の怪我で最も多いむちうちは、3~6ヶ月程度で症状固定と判断されるようです。
保険金の支払いを抑えたいがために、加害者側の保険会社から症状固定を促されることもあるようですが、応じてはいけません。症状固定の判断ができるのは、医師のみです。また、「痛みも引いてきたし、もう治療はやめていいかな」と自己判断で通院を中止することも避けましょう。痛みや違和感が少しでもあるうちは主治医と相談し、しっかりと通院を続けることが大切です。
医師に症状固定と判断されたタイミングで、後遺障害診断書の作成を依頼しましょう。後遺障害診断書は、後遺障害等級の認定を決定するための大切な書面です。後遺障害診断書の内容が不適切だと、本来の等級よりも下がってしまったり、最悪の場合等級が不該当になってしまう場合もあります。全ての判断を医師に任せっきりにせず、しっかりと自覚症状を伝えましょう。また、記載された内容を被害者自身でも確認し、納得のいく後遺障害診断書を取得することが大切です。
後遺障害等級認定の申請方法
後遺障害等級認定の申請方法は、2つ。
- 加害者請求
- 被害者請求
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
加害者請求
加害者請求は、加害者側の任意保険会社に、後遺障害等級認定の申請手続きのすべてを任せる方法です。被害者が行うことは、加害者側の保険会社へ後遺障害診断書を提出することのみです。被害者は手続きを行う手間を省くことができますが、どのような手続きが行われているのかを知ることはできません。後遺障害慰謝料を支払うのは、あくまでも加害者側の保険会社です。そのため、被害者が有利になるように申請手続きを行ってくれるとは限らないのです。
被害者請求
被害者請求は、被害者自身が直接、加害者側の自賠責保険会社に対して、後遺障害等級認定の申請を行う方法です。被害者は、申請に必要な書類をすべて自分で集め、加害者側の自賠責保険会社へ送ります。
▶︎参考:被害者請求で必要な書類は7つ!詳しく知りたい方はこちら。
被害者請求ではすべての手続きを被害者自身が行わなければいけないため、手間と時間がかかります。しかし、自身にとって有利になるように手続きを進めることができるため、加害者請求と比べて、後遺障害等級が認定されやすくなることもあります。
後遺障害慰謝料についてまとめ
交通事故の怪我が後遺症になってしまうと、今まで支払われていた治療費や慰謝料は打ち切られてしまいます。被害者は多大な苦痛を負うことになると思いますが、諦めてはいけません。後遺障害等級認定を受け、後遺障害等級が認定されることで、慰謝料を受け取ることができます。悩みや不安がある場合は、周りの人に相談し、ひとりで抱え込まないようにしましょう。