交通事故治療マガジン

タクシーとの事故だと慰謝料は低くなる?通常の交通事故との違いとは


交通事故の多い自動車ですが、必ずしも相手が一般車両とは限りません。今回は、タクシーが関係する交通事故について取り上げていきます。タクシーとの事故の場合、通常の事故とはどのような点が違うのでしょうか?注意するべき点や、気になる慰謝料の相場についてもご紹介します。

タクシーが関わる事故 慰謝料の請求先は誰?

タクシーが関わる交通事故の場合、慰謝料の請求先は誰になるのでしょうか。
タクシーに乗車中であったケースと、車両同士の事故で、相手がタクシーであったケースに分けてご説明します。

タクシーの乗客の場合

タクシーの乗車中に交通事故が発生した場合、乗車していたタクシー側の過失の有無によって、慰謝料の請求先は変わります。

タクシー運転手の過失がない場合

タクシーの運転手に過失がない場合、タクシー側は被害者です。そのため、乗客の慰謝料の請求先は加害者側、つまり相手側になります。

タクシー運転手に過失がある場合

タクシーの運転手に過失がある場合、タクシー側は加害者です。そのため、乗客の慰謝料の請求先は、タクシー運転手を雇用するタクシー会社となります。主にタクシー会社の交通事故担当者や、タクシー会社の加入する保険の担当者とやり取りすることになります。

タクシーと相手側の両方に過失がある場合

交通事故には、互いに過失が認められるケースがあります。過失割合とは、どちらにどの程度の過失があったかを示すものです。この過失割合が5対5となった場合、乗客の慰謝料の請求先は、相手側とタクシー側の両方になります。

タクシー対自身の車の場合

タクシーと自身の運転する車の間で、交通事故が発生した場合の請求先は、タクシー運転手を雇用するタクシー会社となります。主にタクシー会社の交通事故担当者や、タクシー会社の加入する保険の担当者とやり取りすることになります。

タクシーとの事故 慰謝料の相場は?

慰謝料とは、損害賠償の1つです。交通事故の加害者は、被害者が受けた損害を、主に金銭で埋め合わせる必要があります。これを損害賠償といいます。
交通事故における慰謝料には、「入通院慰謝料」、「後遺障害慰謝料」、「死亡慰謝料」の3つがあります。

慰謝料の計算には3つの基準がある

また、慰謝料の計算には3つの基準があります。「自賠責基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準」があり、どの基準を適用するかで、慰謝料の相場が異なります。
今回は、3つの慰謝料の相場を、基準別にご紹介します。

入通院慰謝料

入通院慰謝料とは、交通事故により入院や通院を余儀なくされた、被害者の精神的苦痛に対して支払われるものです。

自賠責基準
自賠責基準の場合、入院・通院に関わらず、基本的に1日4,200円と定められています。
入院期間が15日だった場合、4,200円×15日=63,000円となります。
また通院の場合は、治療期間の日数と、実通院日数を2倍したものを比較して、より少ない日数を使って計算します。

治療に3ヶ月(90日)かかった場合を例に、考えてみましょう。

治療期間90日で、実際に通院した日数が36日の場合、36日を2倍にすると72日となります。治療期間の90日より少ないため、この72日を計算に使います。通院慰謝料は、72日×4200円となります。

治療期間90日で、実際に通院した日数が48日の場合、48日を2倍にすると96日となります。治療期間の90日の方が少ないため、90日を計算に使います。通院慰謝料は、90日×4200円となります。

ただし、自賠責保険の損害賠償の総支払額は、120万円までと決められています。そのため、120万円を超えてしまった場合は、自賠責基準は使用できず、任意保険基準に基づいて計算します。

任意保険基準
任意保険基準は、加害者が加入する任意保険会社が定めたものです。そのため、任意保険基準は基本的に公表されません。しかし、一般的に弁護士基準の7割程度で算出されるため、自賠責基準より高く、弁護士基準より低くなります。また、被害者の怪我の症状や程度、月平均の通院日数によっても増減します。

弁護士基準
弁護士基準とは、過去の裁判の判例を参考に算出されます。
また、客観的に確認できる症状がある場合と、むちうちといった自覚症状のみの場合で金額が異なります。以下に簡単にですが、まとめました。
まずは、他覚的な症状がある場合です。

期間 通院 入院
1月 28万 53万
2月 52万 101万
3月 73万 145万
4月 90万 184万
5月 105万 217万
6月 116万 244万

次に、自覚症状のみの場合です。

期間 通院 入院
1月 19万 35万
2月 36万 66万
3月 53万 92万
4月 67万 116万
5月 79万 135万
6月 89万 152万

具体的には、きっちり何ヶ月とはならなかったり、入院期間と通院期間があった場合など、慰謝料の計算はより混み入ったものになります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、交通事故により後遺障害が残った被害者に対して支払われます。後遺障害には1~14級の等級があり、1級が最も重いものになります。交通事故による後遺症が、後遺障害等級の基準を満たしていると認定されることで、後遺障害慰謝料を受け取ることができます。

自賠責基準
自賠責基準の後遺障害慰謝料は以下の表になります。

等級 後遺障害慰謝料
1級 1100万
2級 958万
3級 829万
4級 712万
5級 599万
6級 498万
7級 409万
8級 324万
9級 245万
10級 187万
11級 135万
12級 93万
13級 57万
14級 32万

任意保険基準
任意保険基準の場合、共通の基準があるわけではないため、保険会社により異なります。
一般的に、自賠責基準より高く、弁護士基準よりは低く算出されます。

弁護士基準
弁護士基準による後遺障害慰謝料は、以下の表になります。

等級 後遺障害慰謝料
1級 2800万
2級 2370万
3級 1990万
4級 1670万
5級 1400万
6級 1180万
7級 1000万
8級 830万
9級 690万
10級 550万
11級 420万
12級 290万
13級 180万
14級 110万

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、交通事故により被害者が死亡した場合に、被害者本人が受けた精神的苦痛と、被害者の相続人(遺族)に対して支払われます。また、死亡慰謝料は、被害者の家族における立場や、相続人の人数によって変わります。

自賠責基準
自賠責基準の場合、死亡事故の保険金の上限は3000万円です。この自賠責の保険金には、葬儀費用や、死亡逸失利益なども含まれます。

被害者本人への慰謝料は350万円です。
遺族に対する慰謝料は、被害者に被扶養者がいるかいないかでも変わります。
具体的には、請求する遺族が1人だと550万、2人は650万、3人だと750万円となります。また、被害者に被扶養者がいる場合は、200万円追加されます。

例えば被害者に被扶養者がおらず、請求する遺族が3名の場合、
350万+750万円=1100万円となります。

また、被害者に被扶養者がいて、請求する遺族が2人の場合、
350万+650万円+200万=1200万円となります。

任意保険基準
任意保険基準による死亡慰謝料の相場は、自賠責基準よりは高額になりますが、弁護士基準に対しては500万~1000万程度低くなっています。

弁護士基準
弁護士基準による死亡慰謝料も、被害者の立場といったものにより変化します。

タクシーとの事故だと慰謝料は低くなる?

一般的に、タクシー相手の交通事故の場合、慰謝料は低く提示されるといわれています。それはなぜなのでしょうか。

タクシーとの事故の交渉先 タクシー共済とは

タクシー共済とは、複数のタクシー会社が集まり独自に運営する協同組合です。2004年10月からタクシーは、自賠責保険だけでなく、任意保険への加入も義務付けられています。しかし、多くの車両を持つタクシー会社は、車ごとに任意保険に加入すると、多額の保険料を支払わなくてはなりません。タクシー共済は、こうした負担を軽減することを、目的の1つとしています。基本的にタクシーのための組織となるため、通常よりも低めの慰謝料となったり、示談交渉が思うように進まない場合があります。

過失0だと示談交渉サービスは使えない?

タクシー共済と自分で交渉するのは難しい、自身の加入する任意保険会社に代行してほしいと思うのは自然なことです。しかし、自身の過失がなかった(過失0)場合は注意が必要です。
任意保険会社の示談交渉代行サービスは、基本的に過失がなければ利用できません。なぜなら、過失の争いといった利害の関係しない示談交渉は、弁護士法に抵触する恐れがあるためです。つまり、示談交渉をする必要がない場合に、示談交渉を代行してもらうことはできません。
また、タクシー共済に対しては、交通事故紛争処理センターや日弁連の交通事故相談センターも拘束力が及ばないため、利用できません。
示談交渉が精神的な負担にもなりうる場合、弁護士といったプロに相談するのも有効な手段です。

タクシー会社は事故対応に慣れている

また、タクシー会社は、交通事故の対応にとても慣れている場合もあります。
事故処理に慣れた担当者が、タクシーに有利な主張をしてくることもあるため、冷静に対処する必要があります。

被害者が対処できること

では、被害者が対処できることはないのでしょうか。ここでは、いくつか気をつけておきたいポイントをご紹介します。

警察に届け出る

交通事故が発生したら、すぐに警察へ連絡し、届け出ましょう。
交通事故の事実を確認したと証明する交通事故証明書は、警察へ届け出なければ作成されません。
また、事故現場で、口約束の示談を安易にするといったことも避けましょう。

病院へ行き診断書を取得する

交通事故により怪我をした場合は、必ず病院へ行き診断書を取得しましょう。
交通事故における診断書は、怪我が交通事故によるものであるという因果関係を証明します。「軽い事故で怪我をするはずがない」といった主張がされた場合に、医師の証明する診断書は重要な書類となります。

人身事故として届け出る

交通事故により怪我をした場合は、人身事故として届け出ましょう。
すでに、物損事故として処理している場合であっても、医師による診断書を警察に提出し、診断書が受理されると人身事故への切り替えが行われます。
物損事故であっても、治療費や慰謝料を請求できる場合もありますが、事故の被害者で怪我をしている場合は、人身事故として届け出るほうが望ましいでしょう。

交通事故証明書を取り寄せる

そもそも「交通事故は発生していない」といった主張をされることもあるようです。
そのような場合には、交通事故証明書を自動車安全運転センターを通して取り寄せましょう。交通事故証明書は、交通事故の事実を確認したことを証明する書類です。

タクシーの関わる交通事故の慰謝料について

タクシーの関わる交通事故の場合、慰謝料の請求先が、一般的な任意保険会社とは異なる場合が多いです。そのため、交通事故の処理に慣れている担当者に対し、思うように示談交渉が進まないこともあります。被害者としては、適切な慰謝料を受け取るためにも、きちんと警察へ届け出て、怪我している場合は人身事故として処理しおきましょう。もし、「怪我をするはずがない」「事故は起こっていない」といった主張がされた場合に、対処することができます。