交通事故治療マガジン

物損事故扱いでも病院代の請求はできる?

交通事故直後に体に痛みがなく、物損事故で処理をした。しかし、交通事故の怪我の痛みが数日後にあらわれ、後日病院へ通院し始めた。

「物損事故のままでも病院代を請求できるの?」

このような疑問ありませんか。この記事を読んでいただければ、物損事故に対する疑問が少なくできるはずです。

物損事故とは

物損事故とは、交通事故によって自動車やガードレール、電信柱、フェンスなどの公共物のみが破損(器物破損)した場合の事故のことをいいます。また、物件事故と呼ばれることもあります。

交通事故が起こると、自動車や公共物が破損する他、人が怪我を負う場合もあります。
器物破損の他に人が死傷した場合は、物損事故とはいえません。
物損事故はあくまでも、器物のみが破損している場合の事故のことをいいます。

物損事故と人身事故の違い

交通事故には、物損事故のほかに人身事故があります。

人身事故とは、交通事故によって人が怪我をしたり、死亡する事故のことをいいます。
たとえ自動車や公共物が破損していても、人が死傷している場合は人身事故となります。

物損事故と人身事故の違いを分かりやすくまとめると、

加害者が物損事故にしたがる理由

交通事故の加害者は、物損事故で処理をしたがる場合があります。それはなぜなのでしょうか。

交通事故の加害者が物損事故にしたがる理由は、3つ。

①物損事故だと免許の点数が加算されない

自動車の免許証には違反点数というものがあり、交通事故や駐車違反、速度超過などを起こすと点数が加算されていきます。
交通違反を起こすと、違反点数が「減点する」といわれていますが、初めから持ち点があるわけではありません。正確には、最初は0点から始まり、交通違反を起こすことによって点数が加算されていくシステムとなっています。

物損事故の場合、免許証への点数が加算されません。そのため、加害者は物損事故で処理をしたがるのです。

②物損事故だと加害者は刑事罰を受けなくてよい

人身事故の場合、加害者は自動車運転過失致死傷罪危険運転致死傷罪などの刑事処分を受けなければいけない場合があります。

しかし、物損事故で処理をした場合、加害者は刑事処分や刑事罰を受ける必要がありません。

③物損事故だと加害者が負う損害賠償が少なくて済む

物損事故の場合、加害者が被害者に対して支払う損害賠償は、人身事故に比べて極めて少なくなります。物損事故で加害者が被害者に対して支払う損害賠償は、自動車の修理代のみという場合がほとんどです。

しかし、人身事故の場合は自動車の修理代の他に、被害者の怪我に対する治療費や慰謝料なども支払わなければいけません。

物損事故で処理をするデメリット

前述したように、交通事故が起きると、加害者は物損事故で処理をしたがる場合があります。しかし、物損事故で処理をしてしまうと、被害者に対する慰謝料の支払いはされません。怪我の治療費や通院交通費の支払いを受けることもできません。そのため、被害者は怪我を負ったにも関わらず、不利な立場になってしまうのです。

「交通事故直後は痛みがなかったため、物損事故で処理をしたが、時間が経過してから痛みが出てきた」という場合は、速やかに人身事故への切り替えを行うようにしましょう。

物損事故から人身事故へ切り替える方法

物損事故から人身事故へ切り替えるには、診断書を警察署に提出する必要があります。

診断書は、医師が在籍する病院や整形外科で取得することができます。内容としては、病名や医師名、怪我の治療期間の見通しなどが書かれています。「この怪我は交通事故によって負った怪我である」と証明するための大切な書面です。

病院や整形外科を受診すると、医師が診断書を作成してくれます。取得した診断書を警察署へ持っていくと、人身事故への切り替えを行ってくれます。

診断書を警察へ提出するまでの法的な期限はありませんが、事故発生後10日以内を目安に提出を行うとよいでしょう。交通事故から時間が経過しすぎてしまうと、交通事故と怪我の因果関係が明らかではないという理由で、人身事故への切り替えを行ってくれない警察署もあります。

しかし、何らかの理由で人身事故への切り替えを行えず、物損事故のままで処理をしてしまった場合、例外として病院代を請求することができます。

物損事故でも病院代を請求できる場合とは?

人身事故証明書入手不能理由書を加害者側の保険会社へ提出することで、物損事故のままでも病院代の支払いを受けられる場合があります。

人身事故証明書入手不能理由書とは、交通事故が起きた際に、何らかの理由で警察へ人身事故の届け出ができなかった場合、交通事故証明書(人身事故の証明書)を入手できなかった理由を書いた書類のことです。

手続きの方法は、以下の通りです。

しかし、人身事故証明書入手不能理由書を加害者側の保険会社へ提出したからといって、必ずしも病院代の支払いを受けられるわけではありません。人身事故証明書入手不能理由書は、あくまでも交通事故証明書を入手できなかった理由を記入する書類であり、人身事故を証明するための書類ではないのです。
そのため、必ずしも加害者側の保険会社が人身事故証明書入手不能理由書を信用してくれるとは限りません。

したがって、病院代の支払いを確実に受けたいのであれば、交通事故から10日以内に人身事故へ切り替えるようにしましょう。

▶︎参考:交通事故の通院先について

物損事故でも慰謝料を請求できる?

慰謝料とは、交通事故によって被害者が受けた様々な精神的苦痛を現金に換算したものです。

例外を除いて、物損事故の場合は被害者に対して慰謝料の支払いは行われません。

愛車破損に対する慰謝料は請求できない

「交通事故にあったせいで、大切にしている愛車がへこんでしまった…」「新車で買ったばかりなのに、交通事故で傷をつけてしまった…」このような場合、被害者は物損事故でも、加害者に慰謝料を請求したいと考えるのではないでしょうか。

しかし、愛車が破損して悲しみに暮れたとしても、被害者は加害者に対して慰謝料を請求することはできません。

物損事故で慰謝料を請求できるケース

原則として、物損事故では被害者に対して慰謝料が支払われることはありません。しかし、物損事故のままでも被害者に対して慰謝料が支払われる例外もあります。

物損事故でも被害者に慰謝料が支払われるケースを、2つご紹介します。

この2つの例に共通していることは、飼い犬や自宅に対して被害者が特別な愛着を抱いているということです。

「だったら、愛車に対しての慰謝料も支払われていいんじゃないの?」と思われる方もいるかと思いますが、「愛車に対して特別な思いがある」ということは認めてもらいにくいため、慰謝料の請求は難しいといえます。

物損事故で被害者が受け取れる損害賠償とは?

損害賠償とは、交通事故によって被害者が受けた損害の埋め合わせを、加害者が行うことです。

物損事故の場合に、被害者が受け取ることのできる損害賠償は、3つ。

それぞれ挙げた例に当てはまる場合、被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。

物損事故から示談までの流れ

示談とは、被害者と加害者側の保険会社が話し合い、お互い和解した上で、被害者に支払われる損害賠償の金額を決定することです。
示談が成立すると、被害者に対して示談金の支払いが行われます。
ここでは、物損事故から示談までの流れについて、詳しく解説していきます。

事故直後は警察へ連絡

交通事故にあったらまず、警察へ交通事故にあったことを報告するために、連絡をしましょう。交通事故後に警察へ連絡することは法律で義務付けられているので、忘れないでくださいね。
警察が到着するまでにすべき事は、3つ。

加害者の連絡先が分からないと、今後の手続きをスムーズに進めることができません。
免許証を見せてもらい、氏名と住所をメモしておきましょう。また、加害者と連絡がつく電話番号やメールアドレスなどを聞くのも忘れないでください。
損害賠償の請求は、基本的に加害者側の保険会社に対して行います。そのため、加害者が加入している保険会社へ、交通事故にあったことを報告する必要があります。また、加害者側の保険会社だけではなく、自分が加入している保険会社への連絡も行いましょう。

余裕があったら、事故現場の状況や車両の破損部位などをメモ・撮影し、記録しておきましょう。
加害者が嘘の証言をした場合、記録した物を見せることによって、加害者の嘘を証明できることができます。

痛みがなくとも病院へ

交通事故による怪我は、事故後すぐに症状があらわれるものだけではありません。時間が経過してから症状があらわれる怪我もあるため、体に痛みや違和感がなくとも病院へ行き、医師の診断を受けましょう。

交通事故が起きてから病院へ行くまでの期間は、なるべく短い方がよいです。可能ならば、交通事故がおきた当日に、病院を受診してください。
もしも痛みや違和感があらわれた場合は、診断書を持って警察署へ行き、人身事故への切り替えを行いましょう。

車両の修理を行う

車両の修理を行う際、修理工場が決まったら加害者側の保険会社へ連絡をしましょう。
修理の範囲や修理費については、保険会社のアジャスターが修理工場に行き、修理工場と協議を行った上で決定されます。
アジャスターとは、車両の損害状態を調査し、損害額の認定を行う専門家です。

修理工場は、協議によって決められた事柄に従って、修理を行います。
修理期間はそれぞれですが、1週間程度が目安だといわれています。

示談

車両の修理が終わると、加害者側の保険会社と示談交渉を行います。
修理費や代車使用料など、被害者に支払われる損害賠償の金額について話し合い、お互いが和解すると示談成立となります。
示談が成立すると、加害者側の保険会社から示談書の案が送られてきます。
被害者が示談書の案に納得し、署名・押印をして加害者側の保険会社へ送り返すと、示談金の支払いが行われます。

修理や示談がスムーズに進んだ場合、物損事故発生から示談金が振り込まれるまで、約2ヶ月で終了することもあります。
しかし、加害者が任意保険に加入していない場合や、示談で争いが長引いた場合は、2ヶ月以上の期間がかかることもあります。

物損事故の病院代についてまとめ

物損事故で処理をした場合、原則として被害者は病院代を請求することはできません。また、慰謝料の支払いを受けることもできません。例外として請求できる場合もありますが、確実に治療費や慰謝料を受け取るには、人身事故への切り替えを行うようにしましょう。