交通事故で怪我を負った場合、様々な保険を使うことができます。被害者なのか、加害者なのかによって使えない場合もあり、実際どの保険を使えばよいのかという判断は難しいものです。そこで今回は、交通事故で使える保険について解説していきます。
交通事故後に使える保険はどれ
交通事故にあい、怪我を負った場合、病院や整骨院、鍼灸院などに通院することになります。通院の際に、保険を使うことで、治療費や手術費、慰謝料などを受け取れることもできます。
交通事故で使うことができる保険は、以下の5種類のものがあります。
- ①自賠責保険
- ②任意保険
- ③労災保険
- ④健康保険
- ⑤生命保険
それぞれの保険について解説してきます。
①自賠責保険
自賠責保険は、交通事故の被害者を救済するために、最低限の保障を行ってくれます。そのため、加害者の場合は自賠責保険を使えず、以下のように限度額が設定されています。
- 傷害による損害:被害者1人につき120万円
- 後遺障害による損害:被害者1人につき75~3000万円(※1)
- 死亡による損害:被害者1人につき3000万円
※1 後遺障害による損害は、後遺障害の等級で金額が異なります。等級が14級の場合75万円、1級の場合3000万円となっています。
また、車を所有し、運転する人は、自賠責保険への加入が義務づけられています。
②任意保険
任意保険は、車を運転する人が任意で加入する保険です。自賠責保険でカバーできない部分を補償することができるため、多くの人が加入しています。任意保険は、被害者と加害者のどちらでも使うことができます。
ただし、加害者が任意保険を使った場合、保険料が上がる可能性があります。
③労災保険
労災保険とは、勤務中や通勤中に交通事故のような災害で、怪我や病気をしたときに補償をしてくれる保険です。そのため、労働者かつ勤務中や通勤中の災害でなければ、補償を受けることができません。
労災保険は、被害者と加害者のどちらでも使うことができます。しかし、自賠責保険と労災保険の併用はできないので注意が必要です。
▶︎参考:労災保険と自賠責保険が併用できない理由についてはこちら
④健康保険
健康保険とは、病気や怪我をしたときにかかった費用の一部を、国や会社などが負担する保険のことです。被害者と加害者のどちらでも、健康保険を使うことができます。ただし、労災保険が使える場合は、健康保険を使うことができません。
健康保険を使うと、治療費や診察費などの費用を3割に抑えることができるため、交通事故の治療費の負担を減らすことができます。
⑤生命保険
生命保険とは、日々の暮らしの中で起こり得る病気や怪我などで、必要になる費用の負担や損失に備えるための保険です。交通事故は、日々の暮らしの中で起こり得る怪我であるため、生命保険を使うこともできます。生命保険は、被害者と加害者のどちらでも使うことが可能です。
被害者に生命保険金が支払われると、損害賠償額に影響する?
やはり、被害者が自身の生命保険から保険金を受け取ったとしても、加害者に支払い義務のある損害賠償額が減額されるということはありません。生命保険金をうけとっているのに、その上にさらに加害者から損害賠償を受けるのは、気が引けると感じられる人もいるかもしれませんね。
しかし、被害者が生命保険会社から保険金を受け取ることができるのは、自身で生命保険を契約して保険料を支払っていたことによって得た権利であり、加害者には関係ありません。
加害者から損害賠償額を含めた示談金を受け取った上で、自身の権利として保障額満額の生命保険金を受け取ることができます。
このように、生命保険の場合は、自賠責保険と併用して使うことができます。
▶︎ああわせて読みたい:当て逃げや加害者が保険未加入の場合は、政府保障事業に請求!
病院で保険を使ったときに得られるもの
病院で保険を使った場合、得られるものにはどんなものがあるのでしょうか。先程紹介した交通事故で使える保険、5種類それぞれご紹介していきます。
①自賠責保険
自賠責保険を使った場合、以下のような費用を限度額分まで支払ってくれます。
傷害による損害 | 治療費 付添看護費 入院中にかかった雑費 通院交通費 器具や装具の購入費 診断書発行の費用 文書料 休業損害 入通院慰謝料 など |
---|---|
後遺障害による損害 | 逸失利益 後遺障害慰謝料 |
死亡による損害 | 葬儀費 逸失利益 死亡慰謝料 |
②任意保険
任意保険には、加入したら必ず補償される基本補償と、補償内容を充実させるためのオプション補償があります。ただし、任意保険会社ごとで、基本補償やオプション補償が異なります。
任意保険の補償は、以下の通り。
- 対人賠償保険:交通事故で他人に怪我を負わせてしまったときに補償されるもの
- 対物賠償保険:交通事故で他人の車や家屋など、モノを壊してしまったときに補償されるもの
- 人身傷害保険:保険を契約していた人や家族など、搭乗者が怪我を負ったときに、過失割合関係なく補償されるもの
- 搭乗者傷害保険:保険と契約している車を運転していた契約者自身や同乗していた家族などが怪我を負ったときに補償されるもの
- 無保険車傷害保険:相手の自動車保険が使えない場合に、自分が加入している保険から補償されるもの
- 車両保険:保険を契約していた車が損害を負ったときに補償されるもの など
上記の補償は保険の契約内容で異なるため、どの補償が受けられるのか、保険会社に確認をしてみた方がよいです。
③労災保険
労災保険を使った場合、以下のような給付金を受け取ることができます。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料・葬祭給付
- 傷病(補償)年金
- 介護(補償)給付
▶︎参考:労災の給付金の詳細について詳しく知りたい方はこちら
④健康保険
健康保険を使った場合、先程述べたように治療費や診察費などの費用を3割に抑えることができます。
⑤生命保険
生命保険を使った場合、自身が契約した保険内容によって、様々な保証を受けられます。
- 入院給付金
- 通院給付金
- 介護給付金
- 死亡保険金
- 手術給付金 など
また、通常販売している生命保険に、災害割増特約特約(※2)、傷害特約(※3)、特定損傷特約(※4)などをつけることで、保証内容を充実させることができます。
※2 災害割増特約特約とは、交通事故によって死亡した場合に、死亡保険金を上乗せして支払うもの。
※3 傷害特約とは、交通事故によって死亡したり、障害が残ったときに支払われるもの。
※4 特定損傷特約とは、交通事故によって骨折・脱臼・腱を断裂してしまったときに支払われる一時金のこと。
病院で保険を使うには手続きを!
病院で保険を使った場合、手続きを行わなければ、得られるものも得られなくなってしまいます。ここでは、先程紹介した交通事故で使える保険、5種類それぞれの手続きについて解説します。
①自賠責保険
自賠責保険を使った場合、以下の2つの請求方法で、治療費や慰謝料などを請求することができます。
- 加害者請求:加害者が被害者に、治療費や慰謝料などを先に支払い、その後で保険会社に保険金を請求する方法
- 被害者請求:加害者から賠償が得られないとき、加害者側の保険会社に、治療費や慰謝料を直接請求する方法
請求するには、以下のように様々な書類が必要になります。
必要書類一覧 | 取得先 |
---|---|
保険金請求書 | 保険会社 |
損害賠償額請求書 | |
仮渡金支払請求書 | |
交通事故証明書 | 自動車安全運転センター |
事故発生報告書 | 事故当事者 |
診断書 | 通院先 |
診療報酬明細書 | 通院先 |
通院交通費 | 領収書 |
休業損害証明書 | 働いている会社 |
印鑑証明書 | 住民登録をしているまたは、本籍のある市区町村 |
後遺障害診断書 | 通院先 |
レントゲンやMRIなどの写真 | 通院先 |
②任意保険
任意保険は、自賠責保険でカバーできない部分を補償することができるため、基本的に自賠責と一括で請求をすることが多いようです。任意保険会社に、自賠責保険との一括対応をしてもらう場合は、任意保険が会社に「同意書」を提出することになります。
同意書の主な内容には、以下のようなことを記載します。
- ①医療機関に対して治療内容や治療の経過、既往症などの照会を行い、回答を得ること
- ②医療機関に対して照会をしたり回答をもらう場合に、必要な範囲で患者についての情報を医療機関に提供すること
③労災保険
労災保険の給付金を請求する場合、以下のような必要書類を所轄の労働基準監督署に提出することになります。
- 請求する給付金の請求書(※5)
- 第三者行為災害届(※6)
- 交通事故証明書または交通事故発生届
- 念書
※5 請求する給付金ごとで書類が異なります。請求書は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
※6 第三者行為災害届とは、被害者に補償された支払が重複しないよう、支給調整を正しく行うためのもの。
▶︎参考:労災保険で給付金を請求する手続きの流れについてはこちら!
④健康保険
健康保険を使う場合は、医療機関に健康保険を使う旨を伝え、以下の書類を自分が加入している協会けんぽの支部に提出します。
- 第三者行為による傷病届
- 負傷原因報告書
- 事故発生状況報告書
- 念書
- 損害賠償金納付確約書
- 同意書
- 交通事故証明書
⑤生命保険
生命保険の保険金を請求する場合、各生命保険会社で異なる手続きになっています。今回は一般的な手続き方法をご紹介します。
- ①生命保険会社に連絡を入れる。
- ②必要書類を準備し、不備がないように記入する。
- ③必要書類を提出する。
- ④保険金を受け取る。
必要書類に関しては、生命保険会社に連絡する際に、担当者の方に確認してくださいね。
交通事故で使える保険についてのまとめ
いかがでしたか。交通事故で使える保険は、以下の5種類です。
- ①自賠責保険
- ②任意保険
- ③労災保険
- ④健康保険
- ⑤生命保険
上記で挙げた各種保険によって、被害者や加害者が受け取れるものは異なります。自分にとって最適な保険を使って、病院で治療を受けるようにしてくださいね。