交通事故の被害者となってしまったら、その衝撃やショックで気が動転し、怪我をしていても気がつかないことがあります。しかし、交通事故後は必ず病院へ行き、診断書を取得しましょう。今回は、交通事故後に取得するべき診断書について、詳しくご紹介します。
交通事故の手続きに必要な「診断書」とは
交通事故における診断書とは、被害者が負った病名や症状、治療期間の見通しなどが記録された書類のことです。また、交通事故と怪我との因果関係を明確にするための書類でもあります。
怪我をしてしまい、加害者側の保険会社から治療費や入通院交通費などの損害賠償を受けるときには、必ず発行してもらわなければなりません。
診断書の取得方法
診断書は、病院にいる医師のみが作成できます。したがって、交通事故後はまず病院へ行き、医師の診断を受ける必要があります。
小さな交通事故で特に怪我を負っていない場合、「病院には行かなくてもいいかな」と判断してしまう人もいるでしょう。しかし冒頭でも述べたように、交通事故直後は気が動転しているため、怪我の症状に気がつかないことも多いのです。時間が経ってから症状があらわれ病院へ行ったとしても、事故と怪我との因果関係を疑われてしまう可能性があります。
「交通事故による怪我」ということをしっかりと証明できるような診断書を取得するためにも、交通事故にあったら痛みがなくとも病院へ行くようにしましょう。
診断書取得にかかるお金は?
診断書の取得には、お金がかかります。医療機関によって差があるため、一律に決まっているわけではありませんが、平均的な金額は3,000円前後です。また、診断書を取得する際の費用は、治療費とは別のものになります。
保険会社は負担してくれる?
診断書の取得にかかった費用は、損害賠償の中に含まれている「文書費」として、加害者側の保険会社に請求することができます。基本的には、被害者が一度病院の窓口で費用を立て替え、後日示談交渉をするときに清算するという仕組みです。損害賠償について詳しくは後述しますが、請求を行う際にも診断書は必要です。
▶︎参考:示談交渉で納得のいく慰謝料を手に入れたいのなら!知っておくべき損害賠償の知識
診断書の提出先①警察署
診断書は、交通事故後の様々な手続きを行う際に必要となってきます。診断書の提出先として、まず「警察署」があります。
警察署に診断書を提出する理由は、物損事故から人身事故へ切り替えを行うためです。
物損事故と人身事故の違い
物損事故と人身事故の違いは、以下の通り。
- 物損事故
- 人身事故
交通事故によって自動車や公共物などのモノのみが破損する事故。
交通事故で怪我人や死亡者が発生する事故。
物損事故は、交通事故による死傷者が一切発生しない事故です。自動車や公共物などが破損し、死傷者も発生した場合は、人身事故扱いとなります。
物損事故では治療費が出ない
交通事故は、物損事故として扱われるか人身事故として扱われるかで加害者に請求する損害賠償の内容が異なります。
物損事故の場合には、怪我をしていないという扱いのため、慰謝料(※1)を請求することはできません。仕事を休んでしまった場合にも、休業損害や逸失利益もないものとして扱われます。任意保険に加入していても、補償対象になるのは車両の修理費だけです。
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(※1)…慰謝料とは、交通事故にあい損害を受けた被害者が、怪我をして感じる痛み・通院する煩わしさなどの精神的ショックを現金で換算したものをいう。
怪我人が出ていない物損事故には適用されない。
物損事故から人身事故への切り替え方法
物損事故として処理された場合、人身事故への切り替えはできないと思う方もいるかもしれません。しかし、前述したとおり、交通事故直後に痛みを感じないというのはよくあること。事故後2〜3日経って痛みが出てきた場合には、物損事故から人身事故に切り替えをすることが可能です。
病院に行き医師から診断を取得したら、警察署へ行き物損事故から人身事故に切り替えるための手続きをします。
切り替え手続きは、突然警察署に行っても対応できないことがあります。①交通事故が起きた現場を管轄している警察署の交通捜査課に属している、②実況見分を行った警察官でなければなりません。したがって、切り替え手続きを行う前に警察署へ電話をし、「物損事故から人身事故への切り替えをしたい」ということを説明します。印鑑や筆記用具が必要になりますので、電話をした際に持ちものを確認しておきましょう。
事故から10日以内には人身事故に切り替えよう
事故が起きてから人身事故への切り替え手続きをするのに特に期間は設けられていません。しかし、あまり遅くなりすぎると切り替えを認めてもらえない可能性が高くなります。そのため、概ね10日以内には済ませておくのが望ましいでしょう。
警察が人身事故であることを認めてくれない時は?
もし警察で人身事故に切り替えてくれない場合は、加害者側の保険会社から「人身事故証明書入手不能理由書」という書類を取り寄せます。
必要事項を記入し、医師の診断書と一緒に保険会社に提出します。この「人身事故入手不能理由書」は、あくまでも“人身事故証明が取れない理由を記載しただけの書類”であるため、「人身事故入手不能理由書」を記載して提出しても、人身事故として扱われないこともあります。
▶︎参考:事故発生から示談成立までの流れ!損害賠償と慰謝料計算の方法とは?
▶︎参考:物損事故から人身事故に切り替える以外に診断書が必要になるタイミングとは?
診断書の提出先②保険会社
診断書の提出先として2つ目は、「加害者側の保険会社」です。
損害賠償の請求には、加害者側の任意保険会社が、自賠責保険会社の支払い分もまとめて支払う「一括対応」と、被害者自身が加害者側の自賠責保険会社に対して、損害賠償の請求を直接行う「被害者請求」があります。
被害者請求を行う場合、損害賠償の請求に必要な書類を、被害者自身で準備する必要があります。また、被害者請求を行う際の診断書は、自賠責保険用の決められた書式のものを用意する必要があります。したがって、自賠責保険会社から診断書の用紙を取り寄せ、医師に作成を依頼する必要があります。
被害者に支払われる損害賠償3つ
交通事故の被害者は、「積極損害」、「消極損害」、「慰謝料」という3つの損害賠償を請求することができます。
それぞれの損害賠償に含まれている内容を見ていきましょう。
積極損害
積極損害は、交通事故にあったことによって被害者の出費が余儀なくされた場合の損害です。
治療費や入院費、通院交通費などを請求することができます。
消極損害
消極損害は、交通事故が原因で、被害者が本来得られるはずであった収入や利益が減少した場合の損害です。消極損害には、「休業損害」と「逸失利益」が含まれています。
休業損害
交通事故が原因で仕事を休めなければいけなくなり、被害者の収入が減少してしまった場合の減収分を保障。
逸失利益
交通事故の怪我が後遺障害になってしまったことで被害者の労働能力が低下し、以前に比べて収入が減少してしまった場合の損失分。
慰謝料
慰謝料とは、交通事故にあったことによって被害者が受けた精神的苦痛を、加害者が金銭で補ったものです。
入通院をする際に被害者が感じた精神的苦痛を補う「入通院慰謝料」と、後遺障害になってしまったことで被害者が負った精神的苦痛を補う「後遺障害慰謝料」があります。
後遺障害診断書とは
交通事故の怪我を治療し続けても症状が緩和されない場合、医師に「症状固定」と判断されてしまうことがあります。症状固定とは、これ以上怪我の治療を続けても症状の緩和が見込めず、症状が一定になる状態のことをいいます。
医師に症状固定と判断されたら、「後遺障害診断書」の作成を依頼しましょう。後遺障害診断書は、後遺障害等級認定の手続きを行う際に最も重要となる書類です。後遺障害等級が認定されると、1〜14級まである等級に応じて、後遺障害慰謝料の支払いを受けることができます。
▶︎参考:後遺障害等級認定の手続き方法を詳しく知りたい方はこちら
最初の診断書と後遺障害診断書の違い
交通事故にあった直後に取得する診断書と、症状固定の後に取得する後遺障害診断書には、診断書に書かれている内容に大きな違いがあります。
最初に取得する診断書には、「交通事故が原因で負った怪我」について詳しく記載されています。後遺障害診断書には、「交通事故の怪我が原因で残った後遺障害の内容」が詳しく記載されています。また、後遺障害診断書は、後遺障害等級認定に特化した内容の診断書となっています。
後遺障害認定には後遺障害診断書の内容が重要
後遺障害診断書の内容によって、後遺障害等級の認定は大きく左右されます。後遺障害診断書の内容が後遺障害等級に値しないと判断された場合、審査結果が非該当になってしまうことがあります。また、非該当まではいかなくとも、本来の後遺障害等級よりも低い等級で認定されてしまう可能性もあります。
後遺障害診断書の作成を医師に依頼する際は、自覚症状をしっかりと伝え、納得のいくものを取得するようにしましょう。
交通事故後は病院に行って診断を受けよう
物損事故から人身事故への切り替えは可能なものの、必ずできるというわけではありません。手間もかかります。事故当時既に痛みが感じられるなら、実況見分のときに無理をせず、警察官にその旨を伝えましょう。